本当にあの柱を通り抜けて、さっきとは全く違う駅にたどり着いた。周りには自分のようにたくさん荷物を持った人がたくさんいて、流れに身を任せて、荷物を預けてとりあえず列車に乗った。中には個室のようなものがずらりと並んでいて、少し戸惑いながらゆっくりと歩いた。ちらちらと個室を見ながら歩いても、どこの部屋にも人がいて、楽しそうに話している。そして、自分が本当に一人ぼっちでここに来たことを思い出した。もうさっそく帰りたい。どよーんと肩をおろしながらとぼとぼあるいた。人の少ないところに入れてもらおう。それが無理だったら廊下にずっといよう。友達を作ろうという考えが出ないほど、自分は自分が思っているより不慣れな環境に戸惑いすぎているらしい。はあ、とため息をつきながら歩いていると、目の前には、さっきのおばさんと共にいた、赤毛の男の子がいた。あ、と声を上げ、空かさずその子に話しかけた。

「ねえ、ここあいてる?ほかはどこもいっぱいで…」
「あ、あの!」
「え?」

驚いたように振り向いて、君だれ?といった男の子に勢い紛れの声で返す。

「あの、一緒に座ってもいい!?」
「え…あの、僕もいま」
「二人とも入りなよ」

個室の中から声がして、はっとそちらに振り向く。もう一人いたらしい。しまったまた周りが見えてなかった。ごめん、と赤毛の男の子に謝りながら、また少し恥ずかしい気持ちになりながらその子の隣に座った。

「僕はロンっていうんだ」

あ、と思い出す。さっき話したあのおばさんの言っていた名前だ。あの時は焦っていたからよく見てなかったけど、壁に走って行ったのは確かにこの子だったかもしれない。すごい、一発でロンくんと出会った。ラッキー!

「僕はハリー。ハリーポッター」
「え、君があの?」

男の子の名前を聞いて驚いたのは私だけじゃないらしい。あのハリーポッターって、おばあちゃんも言ってたけど。おばあちゃんの知り合いかと思って、おばあちゃんの名前を言って、知ってる?って聞いてみたけど、知らないときっぱり言われた。ごめん…となぜか謝る。違ったよ。なんか私が恥ずかしい感じになったじゃん。そのあと稲妻の傷跡がすごいという話になったけど、よくわかっていない私はどうやって怪我をしたのか考えていた。もしかして自分ではさみで刻んだ…?

「で、君は?」
「みょうじなまえ、です!」
「みょうじちゃん?っていうの?」
「あ…なまえが名前かな」

逆にすると違和感が半端ない。そうだ。日本みたいに普通に名前をいったらそれはみょうじが名前だって思われるよね。不思議そうな顔で見られたから、言いたいことを察して、自分から日本人だよ、といった。ニホンか!とロンくんとハリーくんは納得したような表情をした。しばらくいろいろ話していると、お菓子を売りにおばさんがやってきた。ハリーくんが全部くれと冗談みたいなことを言うものだから驚いてしまった。

「ハリーくんはお金持ちなんだね…」
「そんなことないよ。あとハリーでいいよ」

あ、僕も。とロンくんが続けたから、ロンと彼の名前も呼ぶ。魔法界のお菓子はすごく不思議なものばかりだった。基本動く。百味ビーンズというものには信じられない味があった。ロンの兄弟のジョージさんという人は鼻くそ味をたべたらしい。名前からして嫌だけど、そのあといろいろ味を聞いて、むしろどうやって作ったのか気になった。そうこうしているうちに、女の子が一人入ってきた。うわ、可愛い。その子は私の隣に座って、あっという間にハリーのメガネをなおしてしまう。人生でみた二回目の魔法である。驚きはやはり絶えなくて、すごい…と声に出してしまった。

「ありがとう。あなたは?」
「私はみょうじ…じゃなくて、なまえみょうじ」
「私はハーマイオニー。よろしくね」

そのあとロンもハリーも自己紹介をして、また、あのハリーポッターだと驚かれていた。みんな知ってるものなの?てっきりおばあちゃんの知り合いだと思っていた私はその会話には一切口を挟まなかった。また墓穴を掘りそうだ。これ以上恥ずかしい思いはあんまりしたくない。視界には何も捉えずぼーっとしていたら、ふとロンの赤毛が目に入った。そういえば、ダイナソーの君も赤毛だった。さっき声が聞こえたと思ったんだけど…赤毛なんて、イギリスにはたくさんいるものなのかな。というか、あの時は適当に電車に乗らなくてよかった。本当に良かった。それを助けてくれたのも、ダイナソーの君の声…に似ている気がした人のおかげだ。本当に感謝だ。

あの日、迷子になってぶつかった日から、たまにダイナソーの君のことを思い出していた。出逢ったあの人があまりにもかっこよくて、ずっと興奮が冷めなくて、そのテンションのままつけたあだ名を酷いネーミングだと最初は思ったが、今となっては自分の中で定着してしまった。もう一回会えたらなあ。一瞬のあの出来事が衝撃的すぎた。日本人は奥手で、こっちの人はスキンシップが激しいとか英国紳士とかそういうのからきてて当たり前なのかもしれないけど。憧れに似た感情を抱いていた。もう二度と会えないかもしれないけどいい思い出だった。
そんなことを考えているうちについたらしく、みんなで列車を降りた。暗くまがまがしい空をみて、まさにそれっぽいと思いながら、ハリーとロンからはぐれないように必死に二人についていくのだった。





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