その日は、バカみたいに呆然として突っ立っていたら、慌てながら私を探していたお父さんとお母さんに見つけられて、買い物をしてロンドンのホテルに泊まった。おばあちゃんからいろいろ話を聞いたり、日本と違って9月から学校が始まるというのに、入学にむけてあわただしくしていたらいつの間にか日が過ぎ、あれよあれよという間に入学式当日になってしまった。
ここは、キングクロス駅。私が目指しているのは、9と3/4番線。

「ふざけてるのか」

駅員さんたちに聞きながら、やっとの思いでとりあえず9番線に来てみたけど、3/4番線なんてどこにもない。ちなみに一番最初に9と3/4番線はどこですかと聞いたら、かわいそうなものを見るような目で見られた。涙が出るかと思った。もう何から何まで嫌だ。せめてこうなることくらい説明してほしかったよおばあちゃん。あとまた視線が痛いよ!どうしていいかわからずにまたいつかのように突っ立っていると、突然肩を叩かれた。

「あの、申し訳ないけどそこをどいてくれないかな?」
「あ、すみません」

邪魔になっていたらしい、誰かに声をかけられて、よく周りも見ずにとりあえず足を前に進めてそこをどく。ふう、とため息をついて、目の前に泊まっている列車を見る。もしかしてこれかな。9番線の書き間違いかもしれない。もうこれな気がしてきたからこれに乗ろう。そう思って足を進めようとすると、後ろから気に聞き覚えのある声が聞こえてきて、ふと足を止めた。

「冗談、僕がフレッドさ!」

こ、この声は…!と思いドキドキしながらゆっくり後ろを振り向いた。聴いたことのあるその声は、あの時ダイナソー横丁で出会った、ダイナソーの君(勝手に名づけた)のものに似ていて、運命的にもその人がいると思ったのに。そこには思っていたような人はいなくて、その代わりに、自分くらいの身長と年齢であろう男の子が、柱に向かって、そして消えていくという信じられない光景が広がっていた。呆然としているうちに、もう一人の男の子も壁に突進して消えた。その二人のお母さんであろう人が、ほっとして、小さな女の子の手をつなぎ、同じように柱に向かって歩こうとしている。思わずその人を呼び止めた。

「あ、あの!今の」
「あら?もしかしてあなたも?」

一瞬怪しげにこっちを見たけど、私の持っている大荷物を一瞥し、確信をえたようににっこり笑って答えてくれた。

「あなたも同じようにすればいいのよ。新入生かしら?」
「はい。あの、何もわからなくて」
「大丈夫。私の息子にも今年からの子がいるから!」

ロンっていうの、仲良くしてあげてね。とおばさんは人懐っこいやさしい笑みでそういった。握手をして、ありがとうございます、と頭を下げる。そして、ふうっと息をつく。大丈夫。さっき見たし、大丈夫!自分にそう言い聞かせて、思い切って柱に向かって駆け出した。



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