10月になった。最近の私はとても調子がいい。授業も心なしかすんなり頭に入るし、スネイプ先生の授業ですら楽しみになった。魔法も習ったものを練習すれば使える。こんなに充実した毎日が送れているのは、ジョージ先輩がいるからだと自分でもよく分かっていた。毎日起きて授業に出て、時々廊下で先輩とすれ違ったり、ご飯を食べるときにあいさつしたり、会わない日は次の日に会えるといいなって考えたり、毎日がとても楽しい。日々ジョージ先輩への想いは募っていくばかりである。いやなことがあったって、この前のジョージ先輩とのやり取りを思い出せばなかったことにできるくらいの精神力を身に着けた。

「げ」

ハリーはクィディッチの練習、ハーマイオニーとロンは図書室にいる。私はさっきの教室に忘れ物をしたから二人と別れて教室に戻っている途中だった。魔法薬教室といえば…もちろんスネイプ先生だが。最近の私は最強なので、怖気づくことなく足取り軽く向かっていたのに。たまたま対面したプラチナブロンドの髪の持ち主が、私の顔を見た途端いやそうな顔をした。

「マルフォイ君…げ、って…」
「会いたくないやつにあったら誰でもそうなるだろ」

眉間に濃くしわを寄せ、フン、と鼻を鳴らして私の目を見ずにそういったマルフォイ君に私も少しむっとする。まあでも、マルフォイ君の気持ちはわかる。この前私がついかっとなって言ってしまったあれが原因だろう。ただでさえマグルであるというだけでマルフォイ君に嫌われているというのに、あからさまな嫌われように思わず苦笑いを零しそうになった。私だって、苦手な人とはなるべく関わりたくないと思う。私は別にマルフォイ君が嫌いとかじゃないけど、マルフォイ君は相当私のことがいやらしい。見るからにイライラしているから、むしろ逆に申し訳ない気持ちになった。

「えっと…じゃあ、私…」

早くこの場を去ろうと、マルフォイ君の通り過ぎようと足を踏み出すと、ふとマルフォイ君が抱えている本が目に入った。あ、と思わず声を漏らす。同じ教科書を、二冊…しかも、さっきまで受けていた授業の教科書だった。もしかしてとは思ったが、恐る恐る聞いてみた。

「あの…それって」
「何だ」
「教科書…」

指をさせば、マルフォイ君はまた眉間にしわを寄せて自分の持っている教科書に目を移した。これがなんだ、と言って目の前に持ってきたそれを見て、自分のものだと確信した。私は、間違わないように、日本語でそれぞれの教科名書いた付箋をすべての教科書の表紙に貼ってあるのだ。マルフォイ君が持っている教科書の表紙に見えた”魔法薬”の文字。なんだ、マルフォイ君はこれを持ってきてくれたんだ!すごく嫌な顔をしていたのに、なんだかんだ優しい人なんだなあ、しかも私のことが嫌いなはずなのに。それってつまり、親切心も働かないほど嫌われてるってわけじゃなくて、プラスにとっていいんだよね。うれしくなって、意味が分からないといった表情をするマルフォイ君を気にも留めず、教科書をとってマルフォイ君にお礼を言った。

「ありがとう!今、取りに行こうとしてたから助かった!」
「は…?お前、何を勘違…」
「マルフォイ君って優しいね!見直した!今度お礼する、本当にありがとう!じゃあね!」

図書室でハーマイオニーとロンが待っている以上、ゆっくりするわけにはいかない。これでもかというほどお礼を言って、マルフォイ君の手を無理やり取って、ブンブンと握手をすると、驚いて慌てたマルフォイ君に勢いよく手を払われてしまった。それも予想通りである。マルフォイ君が忘れた教科書を届けてくれた善行を思い出してみれば、ちっぽけはことである。またまた足取り軽く図書室へ向かってしまったからマルフォイ君がどんな表情をしていたのかは見えなかったけど、嫌いなはずの私に親切をしてくれたマルフォイ君がすごくうれしかった。

「ごめん、お待たせ!」
「やっと来たわね。私もうほぼ終わっちゃったわよ」
「え、もう!?」

図書館につくと、課題を目の前にしてうなだれているロンと、てきぱきと手と動かしているハーマイオニーに会って、最初に聞いた彼女の一声に驚いた。結果私は予定よりかなり早く図書館に来れたわけだけど、ハーマイオニーの容量の良さは一体どうなっているのか。二人の前に座って課題を開くけど、ロンは課題をしたくないらしくて全く進んでいなかった。

「もうやりたくないよ…スネイプの奴、毎回死ぬほど課題出しやがって」
「量がやばい事にはすごく同感。すぐに片付けるハーマイオニーがおかしいよね」
「おかしいって何よ。課題はやるものよ、基本でしょ」
「うわあ…優等生」

ロンとハーマイオニーのやり取りがおかしくって、たまに自分が混ざったりして、自然に笑い声が漏れる。そうやって話していると、静かにしなさいとマダム・ピンズに怒られて、三人して気まずい顔で縮こまった。ハーマイオニーは本気で落ち込んでいたけど、そんな時間すらなんだか楽しくて、あっという間に夕食の時間になってしまったから、結局話していたりしたせいで課題はあまり進まなかった。ハリーと合流したのは大広間で、今日も今日とてオリバー先輩にみっちりと扱かれたらしくて、とても疲れた表情をしていた。フレッド先輩とジョージ先輩も同じように疲れているんだろうなあ。大広間はとても広くて各寮の机はとても長いから、すごく遠くに座っている二人の様子は全くうかがえなかった。そうしていつも通り寮に帰るその途中で、ふとハリーが口を開いた。

「絶命日パーティに行かない?」

ジョージ先輩と話したいなあと思いつつも、姿が見えないな、と考えていたから、ふとした問にとても驚いてしまった。絶命日パーティって何だろうと聞こうとすると、ハーマイオニーが目を光らせながら説明してくれた。でもそれって…ゴーストの…いやでも、サー・ニコラスのことは好きなんだけど…。ホグワーツに来て最初は、ある意味幽霊であるゴーストにとても怖がっていたけど、彼らにも情があり仲良くしてくれるとわかると、驚きはするもののすぐに慣れてた。そんな彼らの集まり…慣れたとはいえ怖いけど、絶命日パーティに行ってみたいという好奇心もあった。

「みんなで行こう」

そう決めて談話室に入ると、そこにはフレッド先輩とジョージ先輩がいた。トカゲのような何かに…花火…?また何か実験をしているのかな。周りにはいつも通りたくさんの生徒がいて、相変わらず大人気な二人をみてにんまりしてしまった。

「こら、やめろ!」

そこへパーシー先輩が来て、本当に慌てているのかよくわからないような態度で、逃げろ、と急いで逃げ出す二人と、その様子を見て笑うみんなをみて、私たちも一緒になって笑った。



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