生まれてきてずっと一緒にいたのに、相棒のあんな姿を初めて見た。
何て顔をしてるんだ、と思った。

ハーマイオニーに向かってマルフォイの息子が言った言葉は、決して許せるものではなかった。そんなことを言う奴なんて久々に聞いた。どうしてそんな酷いことを平気で言えるのだろうか。俺もジョージも怒りでとびかかろうとしたら止められた。そのあとロニィ坊やがマルフォイを呪おうとして失敗して、目の前を過ぎ去ろうとしたなまえを止めた声を聞いて、ジョージも俺もなまえのもとに向かった。

「穢れた血め」

ふつふつと怒りが沸いてきた。あんなに感情が悪い意味で高ぶるのは久々だったかもしれない。好意をもって自分達に関わってくるなまえを、いつの間にか本当の妹のように大切に思い始めていた。だからこそだ。そんな侮辱の言葉をかけるのは許さない。ちらりと相棒を見れば、同じように眉を寄せて歯を食いしばって、何とも言えないような表情をしていた。なまえを自分の懐に倒れさせて、手を出すな、話しかけるな、と無言であっても雰囲気でジョージの気持ちが伝わってくるようだった。ただ、俺とは違う。なまえはジョージ、ジョージと誰よりもジョージに懐いている。俺にだって嬉しそうに笑いかけてくれるが、ジョージに対するそれとはちょっと違う。そのことは周知の事実だった。そんなジョージの表情を見てみれば。怒りだけじゃない。なんていえばいいかわからない。
でも、あんなジョージの顔は初めて見た。

「本当にそんな顔になっちまうぞ、相棒」

もぐもぐと、無言で不機嫌そうになまえがもってきてくれたサンドイッチを食べ続けるジョージの眉間をつつく。一悶着あったのが理由で、ハリー抜きで思っていたより軽かった練習を一端終えて、ベンチに腰かけながらこうしてありがたく朝食をいただいているわけだ。なまえがサンドイッチを持ってきてくれたのは有難かった。機転の利く子だ。自意識過剰のようだが、俺たちだから、というのもあるかもしれない。なまえは俺たちのこと(特にジョージ)が相当好きだと誰が見ても手に取るようにわかるだろう。

「そんな顔で食べるなよ。まずそうに見えるぞ」
「まずくない。なまえがとってきてくれたんだぞ」

といいつつ、ムスッとした表情が和らぐことはない。どういう意味だそれ。なまえがとってきたから朝食の味が変わるという事はないのだが、今そんなことを言ってもきっともっと機嫌が悪くなるだけだ。まあ、ジョージがこうなっている理由はわかる。さっきなまえがマルフォイに言いたいことをぶちまけた後、俺もジョージもなまえを抱きしめた時、俺はなまえに感動して褒めるにほめた。なまえの言葉にとてもすっきりしたし、よくやった、なんて女だ、ととても見直した。惚れ直したぜ、といったのも、そういう意味ではないがあながち冗談ではない。だが、ジョージは。抱きしめてはいるものの、喜んでいるのかよくわからない表情で、無言のままひたすらなまえを抱きしめていた。最近はあまり会ってなかったが、一年以上ああやってあからさまに懐かれれば、こちらとて愛着が沸いてくるというものだ。俺もジョージも、気持ちの大きさはどうあれその点においでは変わらない。本当に苛ついた。穢れた血なんて言葉、使うべき言葉じゃない。それに、言われたのがなまえだったのだ。そりゃあ怒りたくもなる。
いい加減に機嫌を治せしつこいぞ、とは言わない。それほどおこる気持ちには俺にもよくわかるからだ。

「ムカつく。言いたい放題言いやがって」
「まあな。マルフォイの息子は親父によく似てるぜホント」
「マルフォイもだけど、なまえも」
「…は?」

ジョージがこぼす様に漏らした一言に思わず素で聞き返してしまった。マルフォイだけじゃない?なまえはよくやったと思う。マルフォイがグリフィンドールの生徒やスリザリン以外の者に嫌味を言ったり馬鹿にしているのはよく見かける。ハリーやロニィ坊やと険悪な雰囲気になってるのもよく見かける。少なくとも俺自身、なまえとマルフォイが口論…というかむしろ、話していること自体を初めて見た。だが、あんなにはっきりと、見ていてすっきりするぐらいはっきりとマルフォイに物申した奴はなまえが初めてだった。時間がありさえすれば、もっともっと褒めてやりたいくらいだ。なのに、ジョージは違うというのだろうか。なまえは、俺たちが馬鹿にされたことや、マルフォイに非があることを怒っていたというのに。それは嫌だろう、大切に思っているなまえがあんな風に呼ばれたら。だからなおさら、ジョージがなまえに怒っている…というか、よく思っていない理由がわからない。むしろなまえが俺たちのことを必死になって怒ってくれたことを、喜ぶべきではないのだろうか。
生れて始めて、相棒であるはずのジョージが何を考えているのかが全く分からなかった。

「なんでだよ。なまえは別に間違ったこと言ってないだろ」
「ああ、言ってない。俺もなまえがマルフォイに言ったのを聞いてすっきりしたさ」

じゃあなんでそんなに腑に落ちない顔をしているんだ。どう見てもすっきりしたと発言した奴の顔ではない。むしろもやもやしまくりだろうと見ればわかる。

「じゃあ、」
「…俺たちの事ばっかりだ」

眉を寄せて静かにそういったジョージの言葉。ああ、とやっと自分の中でジョージの態度の理由が腑に落ちた気がした。

「もっと、自分のことに怒れよ。なまえはいつも、自分のことは後回しだ」
「それだけ俺たちの事好きでいてくれてるんだろ」
「だからって、穢れた血なんて言われて、嫌じゃないわけない」

まるで、自分の事のように怒るんだな、と頭の隅で思った。俺からしてみれば、ジョージだって、ジョージが言うような自分のことを後回しにするなまえと何も変わらないように見えた。ジョージや俺が馬鹿にされたとマルフォイに怒ったなまえ。ジョージはジョージで、俺たちの事ではなく自分にされたことを怒れと怒っている。俺の相棒でありながら、お前はなんて分かりやすい男なんだ、ジョージ。
そうやってふてくされてるお前は、なまえのことが大切で大切で仕方がないのだ。

「それに…かっこいいとか、言う必要ないだろ」

自分の中でもやもやしていたことを俺に打ち明けたで少しはすっきりしたのだろう。付け加えるようにぼそ、とジョージが小さく漏らした一言に思わず笑ってしまった。ジョージが感じていたそれは、きっと嫉妬に似ていた。中々に可愛い弟である。

「ま、なまえのことは俺たちが守ればいいさ」

なまえはきっと死ぬまでずっと俺たちの味方だぜ、と茶化して言うと、ジョージもやっと、そうだな、とゆるく笑った。



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