ロンが吐いていくナメクジをよけながら三人に続く。かわいそうだ、本当に気持ちの悪そうな表情をしていた。ハグリッドならロンを治してくれるんだろうか。いろいろ考えながら進むと、大爆笑していたスリザリンの一同の中にいたマルフォイ君が、笑い声を引きずりながら私を呼び止めた。

「おいみょうじ」
「え、私?」

思ってもみなかったことなので、少し驚いてマルフォイ君を見た。ぴたりと立ち止まったら、マルフォイ君は意地の悪そうな、あきれたような表情で私を見てきた。

「何を自分は関係ない、みたいな顔をしてるんだ」
「…私なんかしたっけ?」

突然そんなことを言われたから、不思議に思って問いかける。ロンを連れて二人は先に行ってしまった。私何も言ってないのにわざわざあえて呼び止める必要はないのに、と思いながら、マルフォイ君の言葉に耳を傾けた。私の後ろに、定位置に戻ろうとしたグリフィンドールの選手何人かの気配を感じた。

「お前もグレンジャーと同じだ。穢れた血め」

ニヤリとバカにするように、さっきハーマイオニーに言ったのと同じ言葉を私の目をじっと見て言った。穢れた血…って、何?と返そうとすると、ふと肩に手が乗る。さっき感じていた後ろにいる人の気配がさっきよりもずっと近くにあって、肩をひかれたままバランスを後ろに倒すと、ぽす、と背中がすぐ近くにあったらしい大きなぬくもりに倒れこんでしまう。ふわっと香ってきたのは、ジョージ先輩の匂いだった。フレッド先輩じゃない。勘だけど、そう思った。私の肩を握る先輩の手に力が入ったのが分かった。それと同時に左肩にも手が乗って、首を動かしてみてみると、おそらくフレッド先輩であろう方、が斜め前に、私をかばうようにして立っていた。二人は、何も言わない。

「おっと、ナイト様の登場かい?旧式の安物しか買えない、随分と貧困な王子様だな」

けらけらと、そういう。ウィーズリーには穢れた血がお似合いだ、と言った言葉にスリザリンの生徒がけらけらと笑い始めた。ジョージ先輩は今、どんな表情をしているのだろうか。先輩が後ろにいるから見えないし、フレッド先輩の表情も見えない。でも、マルフォイ君が言った言葉に自分の中でふつふつと煮えくり返るものを感じた。フレッド先輩がぐっとこぶしを構えて殴りかかろうとしたのにかぶせて、自分でもびっくりするくらい大きな声が出た。

「あのさ!」

ぴたり、フレッド先輩が動きを止めて私を見た。スリザリンの選手たちも笑うのをやめて私に集中する。注目を集めるのは何度目だろう。恥ずかしい気持ちなんてない。今感じているのは、ただ怒りだけだった。よくわかんないけど、私を貶すのはまあ…意味が分からないから今は怒るも何もないけど。なんでジョージ先輩やフレッド先輩を馬鹿にするの。たぶんだけど、ひどい言葉をいったんだろう。私を守ろうと、フレッド先輩なんかは殴ろうとするくらい怒ってくれて、ジョージ先輩だって私の肩をつかんでいる手の力が強い、それくらい怒ってくれている。二人は関係ないのに。それに第一、私の大切で大好きな二人なのだ。バカにするのは許せなかった。

「マルフォイくんさ、何型!?」
「は…?」

拍子抜けしたような表情で、勢いに押されたのかぽろりと自分の血液型を言った。なんだ!私と同じじゃん!穢れたもくそもないわ!と怒りのままに言ったら、マルフォイ君は意味が分からないとでもいうように眉を寄せた。

「私ちゃんと野菜食べてるし!血液サラサラな自信あるし!」
「おい馬鹿か。僕が言ってるのはそういう意味じゃなくて」
「うるさい!今は私がしゃべってんの!」

マルフォイ君に話す隙を与えず、ぎゅっとこぶしを握って、なおも言葉をつづけた。

「何でそんな皮肉しか言えないわけ!?ジョージ先輩とかフレッド先輩とか、マルフォイ君に負けたことあるわけ!?そもそも戦ったことあるの!?」
「は…新型の箒は、」
「だいたい!その箒を買ったお金はあんたが稼いだわけ!?自慢したりバカにできるのはあんたじゃなくてお父さんでしょうが!ねえ!」

私が言った言葉に、反論しようとしていたマルフォイ君が少し目をひらいて、グッと言葉を詰まらせた。ジョージ先輩が私の肩をつかむ手の力を緩めたので、足を進めてマルフォイ君に近寄る。この時の私は相当熱くなっていたらしく、自分を全く制御できていなかった。

「フレッド先輩もジョージ先輩も人間ブラッシャーですから!箒関係ないから!先輩たちのことは一生馬鹿にしないで!」
「僕はただ、本当のことを…!」
「ほら!そういう嫌味ばっかり!意味わかんない!フレッド先輩とかジョージ先輩とか、ハーマイオニー達は実際にマルフォイ君に危害を加えたの!?何もしてないじゃん!理不尽!理不尽だから!」

ハリーやロンは、まあマルフォイ君と口喧嘩を繰り返すことがあるけど。先輩たちは何もしてないじゃん!穢れた血って馬鹿にしたけど、ハーマイオニーだってマルフォイ君に何もしてないじゃん!感情的になっていたから、正直自分が何を言ってるのかわからなくなってきていた。

「だからもうやめてね!約束!マルフォイ君せっかくかっこいいんだから!」
「…は、あ?」
「もったいないよ!嫌味言うのやめなよ!天性のイケメンが台無しだよ!」

言葉を投げつけるように言って、マルフォイ君が何も言わなくなって、言いたいことも全部言った、と感じたその時、はっと我に返った。いつの間にか相当近くに来ていたらしい。目の前にいるマルフォイ君は驚いているようにも見えて、ばつの悪そうな表情で私からふいっと目をそらした。その仕草を見て、血の昇っていた私の頭も一気に冷静になった。慌ててマルフォイ君から後ずさりで離れる。が、もちろん後ろにはジョージ先輩たちがいる。振り返るのが怖かったけど、そろりと後ろを振り返ると。きょとん、とあっけにとられたような、不意をつかれたような、驚いているような、何とも言えない表情をした二人がいた。その後ろのグリフィンドールの先輩たちも、驚きやら、よくわからない表情で私を見ていた。や…やば…私、なんか勢いでやばいこと言ったかな…。そろりそろりと先輩たちのところまで戻る。マルフォイ君に振り返って、なんかごめん、って言ったけど返事は返ってこなかった。私の言葉を皮切りに、スリザリンのキャプテンらしき人が、行こうぜ、と私に睨みをきかせてチームを連れて去って行った。あ…ヤバイ。もしかして私、、グリフィンドールとスリザリンの仲を険悪にしたかもしれない。ていうか、クィディッチに全く関係のない私が何を出しゃばったことを…!勢いでしてしまったことを後悔し始めていた。ジョージ先輩たちに話しかけるのもなんだかすごく気まずい。どうしようどうしよう、このまま振り返らずにハーマイオニー達のところに行っ…

「なまえ!」

突然、ぐいっと肩を組まれた。何が起こったのかわからなくて、不意打ちだったのもあって、ぐえ、と汚い声が出てしまった。その言葉を皮切りに、同じ声にまた名前を呼ばれて前から抱き付かれる。よくやった!とか、すっきりしたわ!とか、ざわざわと選手たちが話し始める声を聞いていたけど、正直私はいろんな意味でそれどころじゃなかった。少し間をあけて、肩を組んだり抱き付いて来たりしているのが、双子だと理解したからだ。

「先輩…!離し…いや、すみませ…!」
「なまえ、最高だよお前!惚れ直しちゃったぜ!」

出過ぎた真似を、と思っていた気持ちは、一瞬で吹っ飛んだ。
わしゃわしゃと頭を撫でながら、興奮気味にそういう先輩たちの言葉を聞いて、うれしく感じた。惚れ直したとか、冗談めかして言うのは…フレッド先輩だろうか。その反面片一方のジョージ先輩であろうその人は何も言わないままだけど、フレッド先輩と一緒に抱きしめてくれた。自分が何をしてしまったのであれ、先輩たちがこんなに喜んでくれているならなんでもいいや、って思えた。後悔したことを後悔。マルフォイ君には申し訳ないけど、私の本心を言えて、私自身もすっきりした。痛いくらいに抱きしめたりしてくる先輩たちに、笑みがこぼれてしまうのは仕方がない。騒ぎはしゃぐ私たちを、周りの生徒が不思議そうに見ていたのには、少なくともここにいる誰も気にしていなかった。
そうして一通り騒いだ後、そばにいた先輩たちが離れて行った。一緒に褒めてくれたオリバー先輩達が私たちから目を離したすきに、双子の大きな体に隠れて、そっと懐にあるものを渡した。

「あの、みんなの分はないんですけど…先輩たちの分だけ」
「もしかして、朝ご飯か?」
「ワオ…本当になまえはよくできた妹だ」

選手たちみんなの分を取ってこなかったことに後悔。次はもっとたくさん取ってこようと決意しながら、二人にそれぞれ渡す。ありがとう、と言ってくれてるあたり、無駄な気遣いではなかったらしい。よかった、とほっと息をついた。ありがとうな、と二人が箒を握りなおして去っていく姿を見て、頑張ってください!と背中に投げかける。一人は背中越しにおう、と片手を上げて返事をしてくれた。もう一人、振り向いたのはどっちだろうか。片方について行くことなく私の傍に立ったまま、ポン、と大きな手を頭にのせてくれた感触に覚えがあって、ジョージ先輩かもしれない、と自分の中で小さな確信を生んだ。

「ありがとな」

何に対しての、その言葉だったのだろうか。マルフォイ君たちが去ってからも、フレッド先輩とはちがい気難しい顔を浮かべていたジョージ先輩が、私の頭をゆるくなでながら、やっぱり少し眉を寄せて気難しそうな顔をして。すぐに表情を変えて目を細めて優しげな笑みでそう言うから、ドクン、と心臓が大きくはねた。ああ、わかる。きっとジョージ先輩だ。こんな風に優しい手つきで頭を撫でて、優しく私に笑いかけてくれるのは。ありがとうと言った言葉になんと返していいかわからなくて小さく頷けば、ジョージ先輩は満足そうに笑って私から離れて行った。ロン達のところに行かなくちゃだめなのに。視線が勝手にジョージ先輩を追って、目が離せない。釘づけになって、その場から動くことがひどく億劫に感じた。
ドクン、ドクン、大きく揺れる心臓音は、そのあとしばらく鳴りやんではくれなかった。



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