ハリーたちが空飛ぶ車に乗って学校に来たという話は一躍有名になった。かくいう私も、その話を聞いてとても驚いたが、無事にやってきたハリーとロンの身は無事だったらしく心底安心した。ハーマイオニーは怒っているようだった。確かに、無茶があるし危ないし、もう二度としてほしくないと私も思ったけど。ちなみにフレッド先輩とジョージ先輩は目をキラキラ輝かせて、なんで誘ってくれなかったんだ!と二人に詰め寄っていた。そんな危ないことはしてほしくないけど、双子らしいな、とその光景を見ていた。ほかにも尊敬のまなざしを向ける人がいて、自分だったら絶対にできないな、と思った。
そんな記憶も新しい。ハーマイオニーの隣に座って、少しだけ向こう側に座るジョージ先輩を盗み見しながらご飯を食べていたら、エロールというロンのフクロウがやってきて、吠えメールというものを持ってきた。

「吠えメールって何…?」
「見ていれば」

分かるわ、って続けたハーマイオニーの声は、手紙から聞こえた大きな声によってかき消されてしまった。手紙から、何故かダイアゴン横丁で聞いたロンのお母さんの声が聞こえる。とても怒っているその声に、広間にいたみんなもだんだん声の出所を見つけて、ロンに視線が集中した。静まる会場の中で、ロンのお母さんの声だけが響いた。話し終わったころ、私もみんなも何も言えなかった。や、やばい…ロンのお母さん怖い…!あんなにいい人そうに見えたのに。まあ確かにロンやハリーに非があるけどね!

「次の授業はなんだっけ?」
「闇の魔法に対する防衛術だよ。偉大な先生が教えてくれるさ」

まだむすっとしているロンが、眉間にしわを寄せながらむすっとした声で言った。ってことは…そうだ、本屋で言ってた。今年の先生はクィレル先生に変わって、ロックハート先生なんだ!教科書全部おいてきちゃった。早くしないと、遅れちゃう!ロンに慌てて別れを告げて、談話室に戻って荷物を取って教室へ向かった。かっこよかったし、本屋にもたくさん人だかりができていたから、すごく有名な人なんだろう。楽しみだ。教室について、ハーマイオニーの隣に座った。ハーマイオニーもわくわくしているようで、二人して楽しみだね、って話をしていたら、ロックハート先生が教室に入ってきた。教室の中にいた女の子たちが一気に色めき立つ。私もその中の一員で、こっそり先生を見て惚れ惚れしていた。なんてかっこいいイケてるおじさまなんだろう。すぐに小テストが行われて、描かれた内容を見て眉を寄せた。先生の好きな色、大望…偉大な業績…!

(一個もわかんない…!)

この内容をテストにするのもどうかと一瞬思ったけど、テストである以上しっかり解かなければならないと深く考えてしまい頭を抱えた。本に書いてあるのだろうか。ダイアゴン横丁でちゃんと一式は買ったものの、一切読んでいなかったため全然わからない。いくら考えてもわからないので、好きな色は自分の好きな色を書いて、大望のところには世界の人々を救う事…偉大な業績は…えっと…この世に生まれ落ちた事…?そのあともロックハート先生について一個もわからなくて、とりあえず先生をすごくほめておいた。テストの問題が解けない自分も嫌だけど、成績が下がるのも嫌だ。読んでおけばよかった、本…!そう思いながら解いていったテストは回収され、ハーマイオニーがなんと満点を取ったらしい。本をちゃんと読んでいても正直読み流してしまいそうな内容もあったのに、さすがハーマイオニーである。ちなみに、

「君は私の熱烈なファンらしいね?」

と隣を通った時にロックハート先生にウインクされて言葉に詰まった。偉大でかっこいい先生にそういわれてしまえば、正直成績のために褒めまくったというのもあるんだけど、少なからず照れてしまうし嬉しく思うのは当たり前である。嬉しそうなハーマイオニーとにやにやしあっていたら、先生がピクシー妖精というものを見せてきた。うわ、なにあれ…。マグル界の生物以外は見慣れないというのもあり、見た目的に受け付けなかったので、思わず目をそらす。が、次にロックハート先生の言葉と共に、ピクシー妖精達が教室へと放たれた。甲高い鳴き声と共に教室の中を暴れまわる小さなそれにひっと声を上げて思わず席を立って逃げた。生徒に群がるピクシー妖精たちから逃げているうちに、ハリーとロンとハーマイオニーと同じところにたどり着いた。ハーマイオニーの髪をつかんで遊ぶ要請を、ハリーが思いっきり本で殴りとばす。視界の端ではネビルが持ち上げられていて、ぎょっと目を開けそちらを見た。どうなってるの。生徒たちに害を及ぼす様な授業はあってならない、先生がどうにかしてくれる。そう思って教卓の方を見てももうそこに先生はいなくて、その代わり扉の近くにそそくさと移動した先生が一言。

「君たち、籠の中に戻しておきなさい!」

そういって教室から出て行ってしまった先生を信じられない思いで見ていた。から、近寄ってきたピクシー妖精たちに気付かなかったらしい。突然ぐいっと手が引っ張られる感触がして、そちらを見やった。

「っ…離して…!」

小妖精が私をあざ笑うようにして甲高い声を上げながら引っ張っているのは、もらってからずっと大切につけているブレスレットである。引っ張られた途端、一気に焦ってピクシー妖精を追い払おうと必死になってブレスレットを守った。あっち行って、これに触らないで!そんなことを何回も無意識に言っていたのには自分では気づかなくて、そして、突然手首に感じた解放感と共に見えた光景に、ガンッと頭を殴られたような衝撃を受けた。もう、引っ張られる感覚はしない。その代わり、手首にあったそれはない。からかうようにちぎれてしまったそれを見てけらけら飛び回るピクシー妖精をみて、カッと頭に血が上った。

「…っの、」

思わず杖を出した。言葉にできない気持ちがあふれてきて、すべて怒りに変わった。怒りのままに思いっきり杖を振って呪文を言おうとしたら、その前に隣にいたハーマイオニーが呪文を言ってピクシー妖精たちの動きを止めた。騒がしかった教室内が静寂を取り戻し、その中でカラン、と私が杖を落とした音だけが響いた。一本のひもになってしまったミサンガのようなブレスレットを持っているピクシー妖精のもとに行って、そっと手に取る。ちぎれてしまったそれを治す呪文なんて私は知らなかった。どうやってもくっつきそうになかった。イライラが増して、ブレスレットを引きちぎったピクシー妖精をむしゃくしゃしながら、強すぎない力でベシッと殴った。

「せっかく…ジョージ先輩がくれたのに…!」

ネビルが、なんで僕だけとか、大した先生だよ、とロンが言ったりとか。聞こえてはいるもののあまり頭に入らなかった。なんでこんなことになったの。なんでピクシー妖精を捕まえてくれなかったの。怒りはすべて、途中で逃げてしまったロックハート先生に向いた。本当に私たちを試したか、逃げたかなんてどうでもいよかった。あこがれていた気持ちなんてなくなってしまって、ただ怒りだけを感じていた。



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