「ほっといてよ。ハリーが望んだことじゃないわ」

ハリーの隣から声を発したのは、フレッド先輩が送ってきてくれた写真の中にいた女の子である。赤毛だ。やっぱり、妹なんだ。とてもかわいらしい顔をしている。にしても…

「おやポッター、ガールフレンドかい?」

憎たらしくそう言うのは、おなじみマルフォイ君である。あれ…背、伸びた?それに、なんだか顔も大人びた。双子やハリーたちもこの短期間で成長しているのだ。もちろん、マルフォイ君だって成長しているはずだけど、なんていうか…さすがだ。相変わらずの美少年、というか。イケメンというか。まじまじと見つめすぎていたらしく、ふとマルフォイ君がこっちを見た気がして、少し驚いた。だけどそのあと、もっと驚くことが起きた。マルフォイ君を制して出てきたのは、あからさまにマルフォイ君のお父さんだった。プラチナブロンドの長い髪を揺らしながらハリーを見つめるその人はかっこよかったけど、圧倒された。そっくりだ。マルフォイ君のお父さんはこういう人なのか、と変に納得してしまった。ハリーの傷跡に触れて何かを話していたけど、マルフォイ父さんをガン見していて聞いてなかった。しまった。

「名を恐れるのはその人への恐れを増長させるだけよ」

ふと、ハーマイオニーが口を開いた。その言葉を聞いてマルフォイさんがそっちを見た。そしてロンを見て、ウィーズリーの家の子だとあてた。赤毛、ぽかんとした表情、おさがりの教科書…と順に述べていくところで、私の意識がその発言に持っていかれた。おさがり…ってことは、ジョージ先輩も使ったのかなあ。学年が離れているしありうる話だ。先輩の教科書、落書きとかありそうだなあ。もしかして、家で学校に入る前の知識とか、ジョージ先輩に教えてもらったりしてるのかなあ。いつでもジョージ先輩が近くにいるんだなあ。

「いいなあ…」

ただならぬ雰囲気の中緊張の糸が走っていたというのに、うっかり本音を言っていたらしく、はっと口を止めた。何故なら、一気に視線が集まったからだ。しまった口に出していた。自分がかなり悪かった。マルフォイ君も、マルフォイ君のお父さんもこっちを見たけど、いつのまにかいたロンのお父さんやマルフォイくんのお父さんは、むしろこっちを見て少し驚いたような表情をしていて、逆にこっちが驚いた。ちなみにハリーや、視界の端に見えたフレッド先輩もこっちを見ているような気がした。やばい、気まずい。

「そうかね。君もきれいな教科書がいい、もちろんそうに決まっているね」

子馬鹿にするように、少し見下しながら言われる。もしかして、古い教科書をみて、何か誤解をしたのだろうか。そんな誤解などあってたまるものか、と否定の言葉を口にした。

「違います!そんな嫌味言いません!」
「じゃあ、何かね」

別にそんなこといちいち言わせなくてもいいのに、と思いながら口を渋る。なんて言っていいかわからなくて、とっさに出てきた発言に自分でもひいた。

「ジョ…ジ先輩の…おさがり…」

シーン。
本当にそんな効果音が流れた気がした。死にたいと思った。できるならばこの場にいるすべての人の記憶を消し去りたいと思った。とっさに言ったにしろ何を言っているんだと自分で自信を叱りたい気分だった。もう何を言っていいかわからない気持ちになって、後ろにいるジョージ先輩の顔を見れるわけがなくて逃げ出したかった。変態か…そういう意味じゃなくて、先輩の身近にいるというのがうらやましいとおもっただけで、その、違くて先輩…!と思っていると、ぽん、と肩にジョージ先輩の手が乗った。でも怖くて振り向けなかった。後で土下座しよう。

「…少し変わった娘さんのようだね。君は…」

ハーマイオニーの話は聞いているけど私の話は聞いていないらしい。まあ、一年生の時ほとんどマルフォイ君と話していないから。ぜひ私のことはさらっと流していただきたいという思いを込めて小さく一歩後ずさった。なんていうか、マルフォイさんに見られた時の圧力半端ない…。

「みょうじだよ。マグルの生まれさ」
「ほう…」

もう勘弁してと思っていたら、マルフォイ君が口を挟んだ。余計なことをと思っていたけど、目を細めたあと、見定めるようにして私を見て、目をそらした。頭のかわいそうな子だと思われたに違いない。穴があったら入りたい。穴に一生埋まっていたい。アーサーさんと何かを話しているようだったけど、正直それどころじゃなさ過ぎた。マルフォイさんが本屋を後にして、マルフォイ君もハリーやロンを一瞥して、そして私を見て子馬鹿にしたような表情を浮かべて本屋を去って行った。なんていうか本当に叫びたい気分だ。私はなんて失態を犯してしまったんだ。

「…ははっ」

少しだけ沈黙が続いたけど、フレッド先輩が笑い出した声にみんなが我に返った。おかしそうに私を見て笑っていて、さらに死にたくなる。

「大胆なプロポーズだな、なまえ!」

けらけらと笑いだすから、やめてください…とうつむきながら言う事しかできなかった。ロンやハリーが同じように私を見て笑ったから、また恥ずかしくなった。ジョージ先輩が後ろでどんな顔をしているのかと考えるだけで泣きたくなった。いや1000%私が悪い。私のせいでいらぬ火の粉を浴びたジョージ先輩に振り返って、顔を見ずに言った。

「ち、違うんです!変な意味じゃなくて先輩に勉強とか教えてもらったりしてるのかなあって!ジョージ先輩が使ったからとかそういうのじゃなくて!」
「いや、別に…」
「ジョージ先輩と一緒に勉強したり教科書みせあったりそういうのがいいなあって思ったんです、先輩ほんとに…」
「いやもう、いいから!なまえ!」

私の勢いに押されたのか引き気味だったのに、突然強く名前を呼ばれたから口を閉ざして正気に戻る。恐る恐るジョージ先輩を見てみると、大きな片手で口元を覆って、私から目をそらして目を泳がせている先輩がいた。顔が赤く見えたのは私の見間違いだっただろうか。

「勘弁してくれ…」

はっとする。ジョージ先輩が恥ずかしそうにしたので、またやってしまったのだと消えたい気持ちになった。自分はこんなに周りが見えないタイプだと思わなかった。ホグワーツに来て、ジョージ先輩に会って初めて知った。らしくもなく小さな声でジョージ先輩がそういったとたん、またフレッド先輩が笑い始める。ハリーたちも続けて笑ってくれたから、それにとても救われた。

「最高だよ、なまえ!」
「なまえは本当にジョージが好きだよな」
「ほんとよ、わかりやすいったらないわ」

げらげらと若干目じりに涙を浮かべながら私とジョージ先輩をみて笑うフレッド先輩に、少し恨みながらも感謝しつつ、他の三人に言い返す言葉もなく、すみませんと心の底からの声で謝れば、ジョージ先輩はぽんぽんと肩をたたいてくれた。ちなみに、片手は口を覆ったままである。

「分かったから。全然おこってない」
「う…以後気を付けます…!」

フレッド先輩はいつ笑い止むのだろうかと思いながら、ジョージ先輩がそういってくれたことに心底安心した。後ろにいたアーサーさんが、外に出ようといったのを皮切りに、やっと一同は書店の外に出た。ロックハートさんが演説しててよかった。身内以外の視線を集めなくてよかった。本当によかった。



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