人混みのせいで周りにジョージ先輩たちがいるかどうか見えなかった。人の間を必死にかいくぐって一番先頭まで行けば、赤毛のおじさんがいて、ロンやハリーに話しかけていた。赤毛、という事は…もしかして。

「ジョ…ロンのお父さん…?」
「ん?君は…誰だい?」

ぱちくりとこちらを見て不思議そうな表情を浮かべた。つまり、本当にロンのお父さんという事だ。か…かっこいい!個人的に好きなダンディ具合だった。なんだか緊張して、はじめまして、と腰を90度まげて手を差しのばしたら、ドン、と誰かに当たってしまった。慌てて振り返ってごめんなさい!と全力で謝ると、にこにこしてこちらを見るおばさんがいた。なんだかかわいらしい笑顔だ。

「初めまして、ロンの母のモリーよ。よろしくね」
「あの…私はなまえです!ロンとは友達で」
「おお、君がなまえか!ロンからも、フレッドジョージからもよく聞いているよ」

私は父のアーサーだ、と人の良い笑みを浮かべたロンのお父さんに全力で振り返った。ジョ…!ジョージ先輩と、フレッド先輩が私のことについて話していた…!?それを聞いて、なんだか逃げ出したくなるくらい幸せな気持ちになった。う、うれしい…!ロンも私のことを話してくれたんだ。きっと双子やロンはハリーやハーマイオニーの話の流れで紹介してくれたんだろうけど、それでも嬉しくてにやにやしてしまった。

「あなたは、一年前の入学式で話しかけてくれた子ね?」
「あ…!お、覚えていただけてたんですか!」
「もちろんよ!どう?学校生活には慣れたかしら」

とても暖かい微笑を向けてそういってくれるロンのお母さんは、1年前私を助けてくれた人だ。あの一瞬しか会ったことがないから忘れられていると思っていたのに。驚きと嬉しさで、あの時はありがとうございました!って言う声は自分でも少し大きかったな、と思う。いい子ね、と笑ってくれるロンのお母さんはとても優しい。ロンが育った家庭は、お父さん・お母さん兄弟含めてみんなとても優しい人なんだなあ。

「という事は、君たちのご両親はマグルなんだね!?」

突然、アーサーさんが目をキラキラさせて私とハーマイオニーに詰め寄った。驚いて少したじろいだけど、すぐにはい、と返事をする。お父さんとお母さんが隅っこで本を見ているのを見つけて、あっちにいます、というと、ハーマイオニーの両親もそちらにいたらしく、喜んでそっちに行ってしまった。マグルが好きなんだ。こんど家から何か持ってきてプレゼントしよう。

「来たわ…素敵…!」

すると、モリーさんとハーマイオニーが突然うっとりと前を見つめた。私もそちらに目をやると、にっこりと素敵な笑みを浮かべたおじさんがいた。有名人なのだろうか。本にサインをした後、日刊預言者新聞のカメラが向けられて写真に納まるが、始終笑顔でかっこよかった。ロンが隣で何か言っていたけど、私は目の前のロックハートさんに必死だった。素敵なおじさまだ。アーサーさんも素敵だし、ロックハートさんも素敵だし、私はおじさまが好きな気質なのかもしれない。まあ、ジョージ先輩が一番好きなんだけ…

「ロ、ロン!ジョージ先輩は、きてる!?」
「来てるよ。確かさっき書店の入り口で二人で本読んでたと思うけど」

もう一人が誰なのかは聞く必要がない。それを聞いて、さっそうと再度人ごみをかき分けて書店の入り口に向かった。入り口付近にいたっていうのに、なんで私は気付けなかったんだ、と後悔する。いくら人ごみだったからとはいえ、周りが見えてなかった。目新しい光景に一瞬気を取られていたけど、同じ空間にジョージ先輩がいるのだ。会いたい、ずっと会ってなかったんだから。前に行くことよりも、入口へ向かう事の方が簡単だった。だんだん視界が開けてきて、少し向こう側、人だかりのないところに、赤毛が二つ、一緒に本を読んでいるのが見えた。きゅうう、と心臓がうずいた。感激で一瞬泣きそうになった。夏休みの間見ないうちに少し大人びたのはハリーやロン、ハーマイオニー二も言えることだった。それぞれかっこよくなったし、美人になった。それは目の前にいる二人にだって言えること。もともと高かったのに、さらに身長が伸びている。一緒に、一緒に本読んでる…!かわいすぎて地団太を踏みたいくらいだったけど、それよりも今は。

「ジョ、ジョージ先輩…!」

少しだけ早足になってそう呼んで、思いっきり抱き付いた。このときの私は興奮で気が大きくなっていたのだ。うお、と抱き付かれた方が驚いたけどあまりよろけない当たり、すごくかっこいい。二人の視線がこちらに向いたことで、またにまにまと口元が緩んでしまう。

「ジョージ先輩!フレッド先輩!お久しぶりです!」
「なまえじゃないか!」

久しぶりだなー!と言って、テンションが上がってしまって抱き付いてそのままだった私の肩をぽんぽんと抱くように叩いた。きゅーんと心の中で効果音が鳴った気がする。でもそれは一瞬で、抱き付いてしまったと我に返って離れた。勢いで抱き付いてしまった、本を持っている方の先輩が私を見てにやにやとしている。あ…あれ、勢いのまま抱き付いてしまったけど、どっちがどっちとか全く考えなかっ…

「ジョージから俺にのりかえたのか、なまえ?」
「フッ…!す、すみません…!」

案の定、フレッド先輩だったらしい。本を除くように読んでいた方の先輩がジョージ先輩だったという事は…!ああーだめだ。穴があったら入りたい。単純に手前にいた方に抱き付いてしまった。興奮で自分が制御できないという…だめだ恥ずかしい。冷静になって少しだけ周りを見てみればパーシー先輩もいて、お久しぶりです、と頭を下げるとふっと笑ってくれる。何もかもに申し訳ない気持ちになった。

「ジョージ先輩!違うんですあの、あの…」
「慌てすぎだ」
「ひ…久しぶりです…会いたかったです…」

ジョージ先輩の方を見て、謝るのと同時にうつむいて、ジョージ先輩だと再認識すると、冷静になった今もう一度抱き付くのはできなかった。かわりに先輩の服の裾を、ありったけの想いをこめて握った。すると、頭の上にぽんと大きな暖かい手が乗って、私の頭を撫でた。

「久しぶり」

バット顔を上げると、笑顔の先輩がそこにいたから、嬉しさやら懐かしさやらかっこよさやらでよくわからない気持ちになって、口をパクパクさせて先輩を見ることになってしまった。私がよほど変な顔をしていたのだろう、おかしそうに笑った先輩にまたきゅんとして泣きたくなった。幸せだ。身近に先輩がいる。もうこの際抱き付いてしまおうか、とつけあがっていたときだった。聞き覚えのある様な声が聞こえた。

「いい気分かい、ポッター。有名人は違うね」

自分の知っているその人の声より、低い声だと感じた。



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