夏休みは死ぬほど勉強した。もちろん、魔法についてである。一年かけて知識は増やしたものの、魔法史や独学だけでは補いきれないところがたくさんあったから、私はおばあちゃんにべったりだった。知らないことを聞けば、おばあちゃんは懐かしんでいろいろ教えてくれた。ちなみにダンブルドア先生はおばあちゃんが学生のころから先生だったらしい。何歳なのあの先生…。あと、そこで知って驚いたことは、おばあちゃんがスリザリン生だったという事である。私の知っているスリザリンといえば、常にグリフィンドールに厳しすぎるスネイプ先生にはじまり、スリザリンの生徒と言って一番に浮かぶのはマルフォイ君。あと一緒にいる男の子と女の子。いつも皮肉を言ってくるイメージがあるけど、おばあちゃんがそういう風には全く見えなかった。昔そうだったのだろうか。予想は全くできないけれど。

「私は純血主義というわけではなかったよ。それに、おじいちゃんはマグルだ」

おじいちゃんはおばあちゃんと一緒でとても優しい。私のことも、実際の娘じゃないお母さんのこともすごく大切にしてくれているのが分かる。それに、わたしはマグルという言葉が好きだった。ジョージ先輩が教えてくれたからというそういう意味の分からない単純な理由だけど別に誰にも言わなければ思うのは勝手だ。
そこでふと、あることを思いだした。それは友人であるハリーについてだ。おばあちゃんだけに限らず、みんなが口をそろえて「あのハリーポッター」というのは、なぜだろうか。ふと疑問を言ってみると、おばあちゃんは難しそうな顔をした。

「昔、ある魔法使いが中心となって人殺しを行って、世間を脅かしていた時期があった。この世には絶対に使ってはならない呪文があって、その中には死の呪文というものがある。それを受けて死なない人はいない。だけど、一人だけ生き残った男の子がいるんだ」

それがハリーポッターだよ、と言うおばあちゃんの言葉を、どこか他人事のように聞いていた。今おばあちゃんの言ったことがまるで現実じゃないみたいで信じられなかったからだ。それって…おばあちゃんも、殺されていたかもしれないってこと。それに、ハリーがそんなにすごい人だと思っていなかったからだ。

「私はすでに日本に来ていたから大丈夫だったよ。ただ、ある魔法使い…名前を言ってはいけないあの人の学生時代をね、私は知っているんだよ」
「え、友達だったの?」
「そうじゃない。彼はとても優秀でかっこよかったから、誰でも知っていて、とても人気のある生徒だった。今となっては懐かしい過去だけどね、おばあちゃんはその人が好きだったことがあるんだよ」

今はなんでもないけどね、とおばあちゃんは笑った。大人気で頭もよくて優秀でかっこよくて、おばあちゃんが好きだった人が、人殺し。それも世界を支配してしまうほどの。そんな時代が自分の生まれたころまで続いていたなんて想像もつかなかった。辛くないのかな、と思ったけど、すごく昔の話だし、何も気にしていないらしい。おばあちゃんはおじいちゃんに会えて幸せだったんだなあ、と思った。

「一般的には別の名でよばれているけどね。名前を言ってはいけないあの人の学生時代の名は、トム・リドル」
「…響きがいい名前だね」
「とても素敵な人だったんだけどねえ。まさかあんなことをするなんて、今でも信じられないよ。私は日本にいたから彼がどうなったかは知らないけどね」

さあご飯にしようか、とおばあちゃんはにっこりと笑って話をやめた。なんだか、とても怖くなった。名前を呼んではいけないってことは、名前を呼ぶことで恐怖されるほど、その、トム・リドルという人が非道を行ったという事なのだろうか。そういえば、その人は今何と呼ばれているのだろう…おばあちゃんも言いたくなさそうだったから、聞けなかったけど。まあいいや。それに、もう関係のない時代なんだ。私が気にする必要はない。そうおもって、台所に向かったおばあちゃんの後を追った。

――そして、イギリス。前と同じようにやってきたのはダイアゴン横丁である。…もう二度と間違えない。お母さんとお父さんは去年私がはぐれたことを根に持っていて、私の両側でしっかりと歩いていた。ハーマイオニーがダイアゴン横丁に行く日とあわせてきたのだけど。魔法界には携帯がないから、細かいやり取りができない。たぶんそれも私が知らないだけでそういう魔法や魔法道具が別にあるのだろうけど、なんていうかマグル界で生きている時間が長すぎるから、いまだに魔法という異文化に慣れきれてない自分がいる。まあ、教材をそろえるところに居ればいるかもしれない。もしかしたらジョージ先輩も…いたらいいなあ、とひそかに思った。

「ロックハートって誰?」
「さあ…一教科でしょ?教科書多くない?」

お母さんは教科書を指定しすぎだと少し怒っていた。しかも一冊一冊が高い。確かに、数学に4つも5つも教科書を使うことはないから、魔法界でも同じようなものだろうと思っていたけど。他の教科は実際にそうだし。とりあえずそこに向かおうという事になり、店の前で止まった。うわ…何この人だかり。何があるのこの中に。しかも、生徒ではなく奥様方ばかりだ。お父さんもお母さんも少しうんざりしていた。ただでさえ魔法界に慣れず疲れているのだろうに、なんだか申し訳ない気持ちになった。

「なまえ!」
「ハ、ハーマイオニー!」

ふと名前を呼ばれて振り返ると、久しぶりに会う友達がそこにいた。反射的に見えたハーマイオニーに抱き付いたうしろでは、ロンとハリーも久しぶり、と声をかけてくれた。二人に抱き付くのは気が引けたので、久しぶり、と握手をした。

「中にみんないるはずだよ。なまえも行こう」
「うん!」

お父さんとお母さんはもうすでに中に入っていた。友達、紹介したかったんだけどな。っていうか今…ロン、みんなって言った?という事は、中にジョージ先輩やフレッド先輩がいるという事だろうか。あと、パーシー先輩。そう考えて、足取り軽く書店の中に入った。



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