スリザリンの寮色で彩られた大広間が、一気にグリフィンドールを象徴する赤と金の飾りつけに変わる。わああ、と空間を揺らす様な大きな歓声が沸き上がった。最下位だったのに、ハリー達の勇敢な行いがギリギリで評価され、加点され優勝杯を得た。グリフィンドールだけならず、ハッフルパフ、レイブンクローの人たちも大喜びしていた。かくいう私も他人ごとではない。自分のことで必死だったといえばそうだけど、もちろん自分の寮が優勝して嬉しくないはずがなかった。真っ青な表情を浮かべているネビルの隣に行って、やったね、といえば、ぎこちなくも笑ってくれる。まだ信じられないのだろうか。ハーマイオニーに話しかければ、とてもうれしそうに笑っていた。テーブルを挟んで反対側にいるジョージ先輩やフレッド先輩、ロンも、とても嬉しそうに騒いでいた。勢いよくハーマイオニーにやったね、と抱き付くと、彼女もうれしそうに抱きしめ返してくれた。ちらりと沈黙を保ったままのスリザリンに視線を向けると、悔しそうに、怒りを抑えたような表情を浮かべている人たちばかりだった。

「…なまえ?ねえ、前をみて」
「え?」

ふと、ハーマイオニーに声をかけられて言うとおりに前を向く。すると、なんとダンブルドア先生がこちらにむかって小さく手招きをしていた。え、ハーマイオニー?ネビル?きょろきょろと周りを見渡して、再度ダンブルドア先生の方を見て、恐る恐る自分を指さすと、こくりとにっこりしながら小さく頷いた。何で私があのダンブルドア先生に、と心臓が止まりそうになった。周りは騒いでいて、私が抜け出そうとしたことに気付いているのはハーマイオニーだけだった。おそるおそる近づいて、先生の前に立つ。それでも騒ぎは収まらないほどみんな喜んでいたから、私が前に出たことに気付いた生徒はほんの少しだけだったと思う。

「ミス・みょうじ。話すのは初めてじゃの」
「は…はい…あの、私何か不手際でも…」

こんな偉大な先生にこの大広間でわざわざ使命をされて呼び出されるとは私は一体何をしてしまったのだろうか。深刻に尋ねる私を見て、またにっこりとほほ笑む。

「友達を信じるのもまた勇気じゃ。わしは君が悩んでいるのを知っておった」
「え…」
「遠い地から一人でやってきて大変じゃったろう。よく頑張ったの」

ぽろ、と、無意識に目から涙が落ちたことにはその時は気づかなかった。染み渡っていくようなとても優しい声だった。特別にご褒美じゃ、と、先生が軽く杖を振ると、私の腕の中にギリギリおさまるくらいの花束が現れた。びっくりして先生を見ると、にっこりとほほ笑んだままだった。ありがとうございます、と笑った表情はきっと、すごく嬉しそうに見えたに違いない。ダンブルドア先生に深くお礼をして、マクゴナガル先生やスネイプ先生、マダム・ポンフリーなど見えた人にぺこりと頭をさげながら振り返った。会場の中の賑わいはまだ続いている。ちらほらこっちを見る人がいるけど、それもやっぱりごく少数だ。その中で一人、赤髪がこちらを見ていることに気が付いた。壇上で、腕の中いっぱいの花束をぎゅっと抱きしめている私を見て、少し驚いたような表情を見せて、笑いかけてくれた。ああ、きっとジョージ先輩だ。確信はないけれど、心の中でそう思った。もらった花束をぎゅうっと抱きしめて、先輩に満弁の笑みを送った。さっきよりも何人か多くの人がこちらを見ている気がしたけど、花束を大切に抱えて、まっすぐとジョージ先輩のところに向かう私にはそれには全く気付かなかった。

――そして、一年が終わる。
自宅に帰る生徒たちが、ホグワーツ特急に乗ろうと駅はとても賑わっていた。ハーマイオニー達と一緒にいたはずなのに、最後に一目ジョージ先輩たちを見れたらな、ときょろきょろしているうちにはぐれてしまった。もう、コンパートメントの中に入ったのだろうか。また一人か…と思って、とりあえず荷物を詰んでしまおうと立ち止まった。でも、こんな時に限って駅員さんがいない。ひとりでこのトランクを上げれるだろうか…重くても持ち上げることはできるものの、置くべき位置が高すぎる。どうしよう、と思っていると、横から聞き覚えのある声が聞こえた。

「手伝いましょうか、お嬢さん?」

勢いよくそちらを向けば、足をそろえて胸に手を当てながら、丁寧にお辞儀をする双子のどちらかがそこにいた。本能的に、ジョージ先輩だとその人を認識し、自然に頬が緩んだ。

「ありがとうございます、ジョージ先輩!」
「わお、よく俺だってわかったね」

少なからず驚いているようだ。やっぱり今回も勘と願望からだったんだけど、当たってたみたいでよかった。ジョージ先輩が私の荷物をもって荷台に乗せてしまうのをみて、かっこいいなあと思ってしまうのはもう無意識である。

「しばらく会えなくなるな。なまえはニホンに帰るのか?」
「はい。あの…」

寂しくなりますね、と聞いてほしいような聞いてほしくないような声心境で、小さな声で言ったんだけど、しっかり聞き取っていたみたいだ。にやり、と笑った。半分は聞こえてほしいと思いながら言ったくせに、いざそういう表情をされると恥ずかしくなってきて、ぼっと顔に熱がのぼる。そんな意地の悪そうな顔もかっこいい。う、と下を向けば、なまえ、と大好きな声で名前を呼ばれてドキッとする。

「手紙書くよ。なまえからの手紙も待ってる」
「は…はい!」
「あと、ダイナソー横丁でも会えるといいな!」

にやり、とまた意地の悪い笑みを見せた先輩に恥ずかしさが増した。もうそれはやめてください、と言いながら、ジョージ先輩やフレッド先輩には一生敵わないんじゃないかと思った。

「遅いぞジョージ。お、なまえ!一緒に乗るか?」
「フレッド先輩!いいんですか?」
「もちろん。マグルの話をたくさんきかせてくれよ」

ジョージ先輩の肩に肘をおいて、少しよりかかるようにしてひょうひょうと話しかけてくる。なんだか、仕草がフレッド先輩らしいなあと思いながらありがとうございます!と笑い返す。するとフレッド先輩が私の頭をぐしゃぐしゃと撫でて、その流れで前髪をかきあげ、近寄ってきたのに驚いていると、ちゅ、と額に唇が当たった。

「な…!」
「相変わらず柔らかいおでこだな」
「フレッド!」

じゃあ先に中に入って待ってるぞー、とヒラヒラ手を振って汽車の中に入って行ったフレッド先輩を、額を抑えながら目を見開いて見ていた。顔が熱いのは仕方がない。フレッド先輩は本当にスキンシップ?がお盛んだ。日本人はこういうのに弱いって事もちゃんと言わなきゃ。しかもジョージ先輩に見られてしまった。別に何も問題はないんだけど、なんとなく一人気まずくなって、先輩の顔が見れない。

「あの…ジョージ先輩、いきましょ」

先輩の裾を引っ張って、自然に顔が見られないように前を歩く。汽車の中に入ろうとする足をぴたりととめたのは、ジョージ先輩が、裾をつかんでいる私の手を引っ張ったからである。手首をつかまれて力任せに体制がジョージ先輩に倒れこむようになってしまったので、驚きながらも、え、と振り向いて。そして、額にふわりと手が触れる。

「ジョ…!」

そっと、ゆっくり額に唇が触れる。それを理解するのにすごく時間がかかって、やっと理解した時には体の全機能が止まってるんじゃないか、って思うくらい足も手もまったく動かなかった。唇が離れて、がしがしと頭を撫でられる。ジョージ先輩と言おうとしたのに、息が空気をきったような声しか出なかった。

「なんかむかつく」

ちょっとだけむっとしながらそういった後、顔を真っ赤にして信じられないような表情をしながらまだ動けないでいる私を見て、すぐに満足そうな笑みを浮かべる。またにやりと笑って、握ったままの私の腕を引いて汽車の中へ足を進めた。フレッド先輩がいるコンパートメントの中に入れば、たくさんの悪戯道具を広げてこっちを見ていた。ジョージ先輩が目を輝かせて反対側に座ったけど、ジョージ先輩の隣に座るのが何故か死ぬほど恥ずかしくてこっそりとフレッド先輩の隣に座れば、フレッド先輩は少し驚いたような表情を見せた。

「珍しいこともあるもんだ」

嬉しそうに笑って私の肩を組んだフレッド先輩に、少なからずドキドキしてしまうのは二人が本当に似ているからである。ちらりとジョージ先輩をみると、意味深にニヤッと笑ってくるので、恥ずかしくて変な表情を繰り返した後手を顔で覆った。もうだめだ、いたたまれない。こっちの挨拶をこの二人にされてしまっては、私にはかなり心臓に悪い。とはいいつつもうれしい気持ちもたくさんあって何も言えない私を分かっているのか、ジョージ先輩は相も変わらずにこにこしてこっちを見るだけだった。



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