ようは、グリフィンドールの持ち点が減ってしまったらしい。ハリーとハーマイオニーと、なぜか今回は一緒にいるロンではなく、ネビル。何があったかを聞いても、一度は言いかけてくれるのに、そのあと絶対に口を噤んでしまう。言ってはいけないことなのだろうか。夜に寮を抜け出して歩き回っていたという事は聞いたけど、なぜそんなことをしたか、という理由は聞いてはいない。絶対に理由があるはずだった。だって、ハーマイオニーが自らそんなことをするようには思えなかったからだ。それに、ネビルまで。絶対理由があるのに、教えてもらえない。少しだけ、疎外感。最近、ハリーとロンとハーマイオニーの三人が行動し、何かに遭遇し、アクシデントに巻き込まれるというケースが多い気がする。私の知ってる限りは、トイレのトロールの事件からだった。私だって最初に一緒にいたのに、私にだけ何も教えてくれない。私だけ仲間外れ。こんなことを思うのはダメだし、見当違いって分かってるのに。
こんなことを考えてるのが嫌だった。三人とも大好きなのに。

「おっと」
「え?」
「誰かと思えば落ちこぼれのみょうじじゃないか」

この棘のある言い方には覚えがある。目の前に立ちふさがるようにして立っているのは、ハリーやロンとやけに口げんかをしたがる(という印象を私が彼に持っている)マルフォイ君だ。さっそく図星をついてきて、うっと声を出したくなったが我慢する。なぜ私の前に立ちふさがるのだ。私は何もマルフォイ君に危害を加えていないし、目立たないし、突っかかったこともないし、絡まれたりするようなこともしていないのに。ハリーと言い合っているところは何度も見るけど、直接私と話したのはむしろこれが初めてなんじゃないかってくらいなのに。

「やあ、グリフィンドールの点が一気に落ちた気分はどうだい?」
「あー…いや」

愉快そうに口元を釣り上げて、私を見下したようにして笑う。マルフォイ君ってイケメンだなあ。上品なお金持ち、って感じのイケメンだ。まさにその通りだ。
グリフィンドールの持ち点が150点も減ったことをマルフォイ君は良く思っているらしい。それもそうか、彼はスリザリンなのだから。張り合う相手が出遅れたら喜ぶのは当然だと思うし。彼の言った嫌味も、日ごろのマルフォイ君を見てれば彼らしいなあ、と思えた。それに、まあ優勝したいな、とは思うけど、グリフィンドールの一位を目標に頑張ってるんじゃない。そりゃあ、勝てるなら勝ちたいし、ジョージ先輩たちもそれを望んでるし。でもそれより、私は自分のことで手いっぱいなのだ。ハリーやハーマイオニーは優秀で、ロンだってやればだいたいはこなしてしまう。一人だけできないままでは嫌なのだ。だから、ただでさえ必死な私が、他を気にしている暇なんてあまりなくて。

「取り返せたらいいなあ、とは思うけど」
「誰が?まさか、お前がか?」
「そうじゃなくて…勝てるなら勝ちたいな、みたいな」

罵倒も疑問もはきはきとものを述べてくるマルフォイ君に少しだけたじろぎながら彼を見上げると、わかりやすく眉をよせ表情をゆがめた。気に障らないことを言ったらしい。火の粉を浴びないうちに、早くこの場から去ってしまおうか。そう思って、じゃあね、と、足を動かした時だった。

「そんなんだから落ちこぼれなんだ。だから置いていかれるんだろ?」
「…どういう意味」
「もちろん、ポッター達の事さ。今回のことも、いつも一緒にいるお前だけかかわっていない」
「そんなの、」
「可愛そうだな。落ちこぼれで、仲間外れと来た」

いや、落ちこぼれだからか、とマルフォイ君は勝ち誇った笑みを見せた。甘ったるい考えだ、と反吐を吐くようにそんな言葉を私に浴びせた。ぴたり、足を止めてしまった私を、あざ笑うかのように言葉をつづける。

「お前、ウィーズリーの双子を大層気に入ってるんだってな」
「…関係」
「無いっていうのか?同学年の友人の中ですら浮いていたのに、よく恥ずかしげもなく付きまとえるな」

ぐさり、ぐさり、心臓に刺さっているのは、マルフォイ君の言葉を借りて現実が突き刺した、事実そのものだった。ぎゅうっと手を握る。何も言い返せなかった。学校で人気者で、誰からでも知られていて、クィディッチのメンバーで、何でも卒なくこなす。かっこいいし、ジョージ先輩やフレッド先輩をそういう目で見る女の子なんて、きっとたくさんいる。わかってる。自分が釣り合うとか、そんなありえないことは一回も考えたことがない。

「それに、奴らは純血だ。マグル出身のお前が、出すぎた真似ばかり…」
「もういい!わかってる!!」

こんなに強く、大きな声ではっきり物事を言った自分に驚く間もなかった。今まで溜まっていたものを吐き出すように、目の前で少なからず驚いているマルフォイ君に言葉を浴びせた。

「落ちこぼれで何もできなくて、知識もないし頭もよくないし!」
「は…」
「マルフォイくんみたいに顔もよくないし変なところでうじうじしてるし!」
「…お、おい」
「そんなの自分が一番わかってる!ジョージ先輩にだって、迷惑かけてることくらい」

マルフォイ君に言っているのに、言葉を発するたび、自分の首を絞めているような感覚に陥った。そうじゃないってわかってる。あの三人は、私が足手まといだからおいてった訳じゃない。でも、そんな彼らの助けにもなれない。ジョージ先輩がいなければ、魔法を使えるようにならなかった。そもそも、ジョージ先輩と話したり、一緒にいることだって、私にとっては世界で一番、何よりもうれしい奇跡で。マルフォイ君は、嫌味といえども、本当のことを言っただけだ。それでも、むかつくと思ってしまう自分が嫌だった。マルフォイ君を見ている視界がじわじわと歪んできて、ぽろぽろと、生き場のない感情が涙に変わって地面を濡らした。それでも、止まらない。

「間違ってるって」
「…おい、みょうじ」
「ここにいるべきじゃないって、ちゃんと」

分かってる、って、言おうとした。でもそれが叶うことはなかった。涙でぬれた肌ごと、大きな手がふわりと目元を隠し私に触れて視界を遮ったせいで、続きをいう事は出来なかった。
この香りを、この手を。私は知っている。

「うちのお嬢が失礼したね、マルフォイ君」
「お前は…。どっちだ」
「さあ、あててみろよ」
「…弟?」
「正解。ご褒美にこれやるよ」

途端、視界が戻って、ぐいっと手を引かれた。ずんずんとマルフォイ君から離れて行って、早足になっている先輩についていくために、自然と小走りになった。目の前を歩くのは、会話を聞いていた限りジョージ先輩だ。何も言わない、こっちを見ない。話しかけたくてもなんとなく話しかける事が出来なくて、ドキドキとどういう意味からかなる心臓音と、何故か遠く後ろの方からマルフォイ君の悲鳴だけが聞こえていた。



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