「…あー」
「どうした相棒」
「いや」
ジョージ、ジョージと、俺とジョージを見分けれもしないくせに、なぜかいつも嬉しそうに駆け寄ってきては必ずジョージの名前を呼ぶ。ジョージの名前を呼んでから、反射的に振り向いた本人を見て嬉しそうにして、まるで俺なんていないかのように話し始める。もちろん、これはなまえの話である。最初は、ダイアゴン横丁をダイナソー横丁と呼んでいるというネタにしないわけにはいかない話題があって、話から察するにジョージとはどこかで出会ったらしいが知り合いというほどではなく、俺たちがからかいながら話しかければ、気まずそうに、恥ずかしそうにうつむくだけだった。その時は、俺がからかってもジョージがからかってもどちらにしろ同じ顔が同じタイミングで話しかけ、どちらか一方との時間を特別にとることもなかったからか、きっと周りのように、俺たちを”双子”のセットとして認識していたのだと思う。本当のところはわからないが、少なくとも最初は、今のようにジョージジョージと自ら近寄ってくるタイプではなかった。
それが、いつからだろうか。
「なまえ、最近変わったよな」
そう。変わったのだ。最初は俺たちを見るだけで、申し訳なさやら恥ずかしさやらで居所が悪そうな表情をしていた(それが面白くてからかっていた節もあるが)。もともとなまえという人間を正面からしっかり見てとらえたことが無かったというのも大きな理由の一つだと思うが、最初に捉えた彼女の印象と、今見る彼女はまるで違う人間だ。そもそも、なまえが突然ジョージに懐き始めるまで、笑顔はおろか、声すらあまり聞いたことがなかったほどだ。
「そうか?まあ、ちょっと明るくなったかな」
「ちょっとどころじゃないだろ」
それが、一体全体どうしたことだろう。ある日、クィディッチの練習の休憩中、アンジェリーナが軽い怪我をしたからとジョージと俺とアンジェリーナで医務室へ向かって、そのついでで野生のトロールと対面して数日間目を覚まさないという大胆な彼女のお見舞いがてら、彼女がねているベッドを除いた。ジョージは真っ先になまえのもとに向かって、俺はアンジェリーナに付き添ってから、去って行った後にそこに行った。タイミングよく目を覚まして、俺とジョージの冗談を戸惑いながらきょろきょろとみて。そのあと、何がおもしろかったのか、満弁の笑みで笑ったなまえをみて思ったものだ。
なまえは、こんな風に笑うのか、と。
「それに、お前とも仲が良くなった」
クィディッチの練習を終えて、ジョージと一緒にではなく一足先に談話室に戻ったあの日。今まで顔をうつむかせてばかりいたなまえが、俺の顔を見た途端、花を咲かせたように笑って、嬉しそうに近寄ってきたのだ。一瞬、驚いて彼女を無言で見つめた。そんな俺に気付かずに、なまえは俺をジョージだと思って、魔法が使えたという話題を弾丸のように話し始めた。俺がジョージではないという事を伝えるまで、ずっとにこにことはにかんで。あれには、正直少し驚いた。
「でも、素直なところはずっと同じだ」
思い出し笑いなのか、クスクスと笑うジョージを見る。確かに。悪戯心が働いて額にキスをした時も、からかうつもりで少しだけ甘い言葉を言った時も、彼女は顔を真っ赤にしていた。思い返してみれば、一番最初なまえと出会った時も、ダイナソー姫とからかっていた時も、病室でありがとう、といった笑顔も。すぐに真っ赤になるのも彼女が素直な証拠だ。俺たちにとっては過度なスキンシップじゃないのに、なまえにとっては過度と感じるらしくて、バカ正直に赤くなったりするから、面白くてついつい懲りずにからかってしまう。それくらい、なまえの反応はいつも素直だった。
「よく見てるな」
何があったのかは知らないが、ジョージがなまえと、少なからず俺よりは仲がいいと気付いたのはあの医務室の出来事からである。何があったのかは知らないが、なまえがジョージをみれば犬のように寄ってくるようになったのも、その出来事の後だったような気がする。
そうだ、そういえばあの時。俺とジョージに向かって、はじめてなまえが嬉しそうに笑ったところを見て、笑えるのか、と正直驚いてしまった。
「そうか?フレッドもだろ」
「俺は」
「違くないぞ。俺から見たらそうなんだ」
違う。よく見ているわけじゃない。ただ、俺とジョージの見分けもつかないのに、双子でまったく同じような俺ではなく、違うことなく彼女がジョージを呼ぶ理由が気になるだけだ。ほとんど同じなのに。むしろ、なまえ本人ですら俺たちを見分けれてないのに。彼女の中の何が、何を見て、どんな理由でジョージを求めているのだろう。それが気になっているだけで、特別彼女をよく見ているなんて、そんなことは絶対にない。
「あ、でも」
…ああ、あとひとつだけ、あえて述べるとしたら。
「ん?」
「…やっぱなんでもない」
「は?気になるだろ」
「ジョージには秘密」
「なんだそれ」
笑った顔が見たくて、自然になまえを見ていたり。そういうのはまあ、否定はできないかもしれない。
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