「で、できた!」
「すごいじゃない、なまえ!」
「やった…!」

自分のふった杖の先で、ふわふわと浮く白い羽。隣にいたハーマイオニーが褒めてくれるのを聞いて、うれしくてすさまじい勢いでありがとう!といったら、少しびっくりされた。グリフィンドールの寮の談話室で、前の授業でできなかったことを試しにやってみたのだ。できるようになったきっかけは、きっと空を飛んだ、ハロウィンのあの日だ。魔法を実際に体験したから、自分の中でも何かしらの変化があったに違いない。嬉しくて、このことを報告したくてうずうずしているところに、扉が開い他のでそちらを見やると、心の中で考えていたまさにその人がいたから、思わず急いで駆け寄った。

「ジョージ先輩!できた、できました!羽、ういた!」

ちなみに後々ハーマイオニーに聞いたら、この時の私が駆けつけてそういうまでの勢いは、はたから見たらもしかして突進するように抱き着くんじゃないかと思ったらしい。そんなことはしなかったが、今思えば興奮で、少しばかりジョージ先輩と近すぎたかもしれない。嬉しくて、先輩によくやったな、って褒めてほしくて、先輩の次の言葉を待った。

「よくやったね、ダイナソーちゃん。でも残念、俺はフレッド」
「…え」
「ジョージはあとからアリシアと来るよ」
「すっ…!」

すみません!と慌てて頭を下げて謝ろうとしたけど、フレッド先輩との距離が近かったせいで、思いっきり先輩の胸元に頭突きしたみたいなことになってしまった。うっ、と先輩から鈍い声が聞こえる。一瞬で青ざめて、少しだけ離れてすみません!と痛そうな顔をしている先輩にまた頭を下げて謝った。顔をゆがめて痛がっている先輩を見て申し訳なさがまた募って、自分が頭突きをしてしまったところに触れた。痛くなかったですか、すみません!とひたすら謝ると、フレッド先輩がまたびっくりしたような顔をして、ばつの悪そうな顔で笑った。

「冗談。そんなに痛くないよ」
「そうよなまえ、それに謝りすぎよ」
「で、でも、私フレッド先輩に失礼なことしかしてない!」

ジョージ先輩と間違えるし、頭突きするし、これが謝らずにいられるだろうか。もう一度すみませんというと、フレッド先輩がにやりと笑った。

「そうだな。お詫びはこれでいいよ」

広げたはずの距離をまたフレッド先輩が縮めて、顔が近寄ってきたからびっくりして避けようとしたけど、そんな私をお見通しだったのか、先輩の唇がちゅ、と額に触れた。

「まあ」
「やわらかいおでこだね、なまえ」

そういってすぐに離れて、何が起こったかよくわかっていない私にウインクを飛ばして、私を通り過ぎて言った。クスリと笑ったハーマイオニーと何かを話していた気がするけど、私はそれどころではなかった。時差で事を理解して、振り返った時にはフレッド先輩の後姿が消えるときだった。隣でハーマイオニーがくすくすと笑っているのに気付いたのはそれのすぐあと。

「えっ…英国紳士…」
「は?」
「日本人には刺激が強すぎですほんと…」

半分愚痴を言うようにうつむきながらぼそぼそとそういうと、顔が真っ赤よ、と隣から聞こえて、より一層恥ずかしくなった。初めてフレッド先輩単体と話した気がするけど、まあ今のは特例だったとして、双子の行動どちらを見ても、いちいちいろんな意味でスリル満点だ。無理だ。日本人でこんなことする奴がいたら一瞬でプレイボーイだとかチャラいとか言われるのに、それが様になっているからなおさら憎めない。

「グレンジャーとなまえ?どうしたんだ?」
「あら、ジョージね?」

その言葉に、バッと音が聞こえそうなくらい勢いよく振り向いた。さっき部屋に戻って行ったフレッド先輩と同じ服を着て、さっき言ってた通り、アリシア?という金髪の女の人と一緒に戻ってきたようだ。よく俺ってわかったなグレンジャー、と驚いたように言ったジョージ先輩に、ハーマイオニーは説明するのを少し渋って曖昧に笑って返した。そんなジョージ先輩をぼけっと見ていたら、私の視線に気づいてジョージ先輩が私を見つめ返してきた。くりくりとした目をこちらに向けて、きょとんとしている先輩を見て、ドクンと心臓が揺れた。フレッド先輩と全く同じ顔で同じ声、さっきの出来事を思い出して、その上目の前にいるのがジョージ先輩で…!

「あれ、なまえ…顔が赤…」
「わっ…私図書室で課題してくる!」

いてもたってもいられなくて、思わずそこから抜け出した。ハーマイオニーは私の心中を察してか、私の背中に向かって行ってらっしゃいとそう言ってくれたのが聞こえた。なまえ、とジョージ先輩が私を呼ぶ声がしたけど、私の幻聴だったかもしれない。フレッド先輩にされたことを思い出して、ジョージ先輩になぜか少し申し訳ない気持ちになっている理由は、自分でもよくわからなかった。



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