痛い。頭がガンガンする。突然芽生えた意識はそんなことを考えていて、ゆっくりと目を開けた。

「…あれ」

どこだろう、ここ。自分は、見たことのないこの部屋で眠っていたらしい。確か…ハーマイオニーがいるトイレに行ったら怪物がいて、その怪物の攻撃を避けたら飛んできた木片が頭に当たって、それから…えっと…

「おきた?」
「…え」
「お目覚めだ!」
「え、あの…」
「気分はどう?」

同じ顔が二つ。天井を見上げていただけだった視界に両側から割り込んできたのは、見覚えのある二人だった。驚いて、むくりと体制を起こした。突然起こしたからか、一瞬ぐらりと視界が揺れて、めまいがした。

「あれ…あの…ジョージ先輩とフレッド先輩?」
「ご名答。練習中にアンジェリーナが怪我してね」
「アンジェリーナ?」
「そう。俺たちは付き添いで医務室に来たんだけど」
「そしたらなまえがいたからお見舞ってたってわけ」
「おわかり?」

ジョージ先輩だろうか。フレッド先輩だろうか。どっちかわからないけど、二人が交互に話すから右を向いたり左を向いたり大変だった。もしかして打合せしてきたの?言っていることも順番も何もかも同じなんだけど。ならその、アンジェリーナさんはどこにいるのだろう。不思議に思っている私の考えを察したのか、双子のどちらか片方が、アンジェリーナなら先に戻ったよ、と言った。考えを読まれてちょっとびっくりした。

「あの…私なんでここに?」
「さあね。俺達はロニー坊やから聞いてたことしか知らないけど」
「気絶してたんだよ。トロールと戦ってね」
「トロール?ってもしかして、あのでかい怪物?」
「そうだよ!ずっと寝てるから、ダイナソー姫が永遠の眠りについたのかと心配だったよ」

本当に心配してたのかどうか怪しすぎる表情と声でそういわれてなんて返していいかわからなくて、とりあえずダイナソー姫はやめてください、と懇願するように心から言ったけど、発言した方を見てもやめる気はさらさらないとでも言いたそうな顔をしていた。

「3日も眠ってたんだ。さすがの俺たちも本気で心配したぜ」
「え、3日!?」
「これ以上眠ってるなら、俺という王子様のキスが必要だと真剣に思い始めたころだったよ」
「キッ…!」

どっちが何を言ってるのかがわからないけど、ダイナソー姫と発言した方が言った発言を聞いて、思わず反応してしまった。最後まで言えずに、言葉を止めてその人を見る。意識をしているわけじゃないのに、勝手に顔が熱くなっていくのを感じて、はっとして布団にもぐりなおした。

「潜っちゃった」
「王子様って例えるなら、フレッドじゃなくて俺の方がお似合いかな」
「いーや、俺だね」

布団にもぐった私を間に挟んだまま、ふたりがわーぎゃーと楽しそうに言い合っているのを聞く。会話から聞くに、どうやらからかってきたのはフレッド先輩らしい。ってことは…さっき、私の名前を口にした左側の先輩は、ジョージ先輩という事だ。それが分かった途端、口元が勝手にニヤッと動いた。一瞬のことだったけど、自分でも驚いて口をおさえる。何一人芝居をしているんだと自分で自分が恥ずかしくなった。

「あ、あの…ずっと見ててくれたんですか?」
「アンジェリーナが戻ってからだけどね。まあ、ジョージは医務室に来てすぐここに来たけど」

どちらにせよ、練習?に戻らずにここにいてくれたらしい。ふざけてはいるが、実際心配してくれていた二人に、布団から出てありがとうと言った。一瞬きょとんとした二人が、揃いも揃って同時に笑い返してくれたから、その様子がおかしくて思わず私も笑った。

「わお」
「?」

右側にいるフレッド先輩が少し驚いたような表情で私を見るから、不思議に思いながら先輩を見返した。だけどすぐにいつも通りに戻って、ジョージ先輩と会話を繰り広げた。やがてマダム・ポンプリーがやってきて、しっしと二人を追い払ってしまった。部屋を出る際に、片方がこっちを見てひらひらと手を振った。左側にいたジョージ先輩が扉に向かうまでを目で追っていたから、きっと最後に振り返ってくれたのもジョージ先輩なんだろうな、と思った。

(…あれ、なんで私ジョージ先輩を見てたんだろ)

きっと左側にいたジョージ先輩から目を離していれば、出ていくときに手を振ったのがどっちがどっちかわからなかっただろう。そうじゃなくてよかった。手を振ってくれたのがジョージ先輩だとわかって、心の中にぽっと暖かな火が灯ったような気持ちになった。



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