酔いどれ騒動
※成人済みパロ
「ただいま」
「おかえり」
先に寝てしまおう。そう思って歯を磨き布団に入ろうとしていた時だ。任務に出ていたネジが帰って来た。
ガチャガチャと鍵を開ける音で入りかけていた布団から出て玄関に向かえばネジが靴を脱いでいた。良かった。今日も無事に帰って来た。
「遅かったね」
「ああ…任務の後ちょっと、な」
「ちょっと…って、あ、飲んで来たんだ」
お酒くさい。そう言いつつ持っていた荷物を持ってやるとネジがじっとこっちを見つめてきた。その目はどんなことなく虚ろでとろんと潤んでいる気がする。ネジはアルコールを入れても顔にはあまり出ないタイプだけどほんのりと目元が赤い感じもする。お水でも飲ませよう。そう思ってネジに背を向け冷蔵庫へ向かおうとした。が、
「うわっ」
がしっ、と、腕を掴まれた。え、と振り返れば何を思ってかネジが私の腕をしっかりと掴んでいる。何?と問い掛けると暫くしてぽつりとネジが言った。
「何だ、寂しかったのか」
「………は?」
「遅かったって、寂しかったってことか」
「…熱でもある?」
何を言ってらっしゃるんだろうこのお坊ちゃまは。寂しかった?いやいやいやないない。
「何を言っちゃってるのネジは。やっぱり頭でも打ったんじゃない?」
「そうやって照れ隠ししなくていい」
「だから何を言って…うっわ!?」
「ほらギュってしてやるから」
「む、むぐ…!」
アホか、とどこかおかしいネジの言動をいなしていた筈が掴まれていた腕をそのまま勢い良く引かれネジの腕の中にスッポリと収められた。かと思いきやきつく抱き締められるではないか。勢い余ってその胸板に顔からダイブしてしまったため、とっても苦しい。鼻…!鼻潰れる…!
「んー!」
「何だ、まだ何か足りないか」
「ぶはっ、え、ちょ何を」
「キスしてやる」
「い、いらないから!」
「照れなくていい」
「照れてないっていうかお酒くさっ!」
「飲んできたからな。軽く」
ちょっとだけだ。と人差し指と親指で“ちょっと”のジェスチャーをしてみせてきたネジ君。どうやら相当酔っているらしい。何ですぐに気付かなかったのかって、普段こんなふうに酔ったりしないからだ。ネジはお酒に強い方だし、相当酔ったとしても気持ち悪くなってダウンするタイプで…こんなふうに甘え上戸、というか、まあ本人は私を甘やかしているつもりらしいけど、とにかくこんなふうになるなんて珍し過ぎるんだ。本人は「軽く」なんて言っているけど絶対軽くない。
「私、明日任務なの。分かる?酔っ払いに付き合ってる暇はないの」
「そうか」
「分かってくれたのね」
「ああ」
「じゃあとりあえずお風呂入って歯磨いて寝ること。オーケー?」
「オーケー。じゃあ一緒に風呂だな」
「何もオーケーじゃない」
ボコン、と手近にあったティッシュ箱でネジの頭を殴ってやるがあまり効果はないらしい。「ん」と言葉になっていない言語を鼻から音にして再度私を抱き締めてくる。子供だってこれよりは聞き分けが良いわよ。
「テンテン」
「なあに、もう」
「キスしてほしくないのか」
「だあああっ、そのクダリはもういいから」
「何だ。したくないのか」
「何を…」
「俺はしたいのに」
ガキ大将か。…でも確かにこんなネジ、本当に珍しい。
「…ねえ、ネジ」
「なに」
「ネジでも抱きつきたいとかキスしたいって思うんだね」
「思うだろ。人間だからな」
ぶはっと噴出した後に、そりゃそうだと妙に納得してしまった。こんな素直なネジ、本当に滅多にお目にかかれない。…折角だからこの機会に日頃疑問に思ってること、聞いてみようかな。ふとそんな欲にかられる。
「…ね、ねえネジ」
「今度はなんだ」
「あのさ、その、ネジって強くて上忍で、周りからも高く評価されてるじゃない?そんなネジが平凡な私のどこが良くて一緒にいるのかなって、思って…」
ネジも驚くほど素直だし、私も少し、いつもは聞けないようなことを聞いてみても罰は当たらないんじゃないかな。そう思って常に頭にあった疑問を口にしてみたはいいけど…何だか変にドキドキしてきた。真剣に緊張しながらネジの答えを待てばやがて…
「どこが好きってことか…」
「う、うん」
「…」
「…」
「…胸?」
「よし分かったブン殴られたいってワケね」
早まるな、と意味不明なことを言いながら抱き着く腕を強めるネジ。人が真面目に話してるっていうのに。本当に忍具でも口寄せしてやろうかと殺意を芽生えさせていると何やら今度は真剣に考え始めたらしい。うーん、などと考える声がする。今更遅いわ、と思いつつやはり少し気になってしまう。そして暫くしてネジが口を開いた…が。
「そうだな。そういうところだな」
「いや、勝手に頭の中で自己完結されても」
「そういうところなんだ」
「そういうとこって…」
「本当は淋しがり屋で自分にあまり自信がなくて自分の実力も十分に分かっていて、でも人前ではそれらを何も感じさせないように振る舞って、そんなところに強さと弱さを感じて愛おしく思う」
「いとっ…!」
「俺には真似出来なかったことだからな。尊敬もしている、と思う」
「思うって」
どっちよ。そう言えばネジがおかしそうに笑う。普段は口数多くないのにこんなに饒舌になっちゃって。…
「ネジ」
「ん」
「こんなふうに酔って甘えたりするの、私のいないとこではしないでよね」
「しない」
「本当に?オッケー?」
「オッケーだ」
本当かな。そう笑えば「お前がいないとこじゃこんなふうに気を抜けない」なんて重い体でもたれかかってくるものだから。大きな子供みたいだ。くすっと笑い、どうやら半分寝に入っているらしい重くなったネジを布団まで運び横にする。もうお酒臭いけどどうせ私も寝るつもりだったし、このまま二人で寝てしまおう。電気を消し同じ布団に潜れば目をすっかり閉じて身動ぎしたネジ。
「…ひとつ、言い忘れた」
「?」
「お前に、名前を呼ばれると酷く心地良い」
そう呟いてすっと微睡み今度こそ眠りについたネジ。…明日これ覚えてるのかな。明日のことを考えてふっと笑いその額にそっと唇を落とす。そういえばキスしそこねたね。何だか私が意地悪したみたい。これで今日は我慢してよね。
「おやすみ、ネジ」
安心してくれるなら名前くらい、何度だって呼んであげるから。
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「―で、すっかり覚えてないってワケね」
「…悪い」
起きがけ。思いっきり私に抱き着いて寝ていた自分にビックリしたらしいネジが目を白黒させて目で何が何だかと訴えてきた。こりゃ覚えてないわとジト目で、とりあえず正座させてみる。
「随分遅くまで飲んでたみたいでねえ。漸く帰って来たかと思えばだいぶ酔ってらっしゃったみたいでもうビックリ」
「…そんなにか」
「明日任務だから寝させてって言ってるのに抱き着いてくるわキスしろだの何だのって聞かないわおまけに力は強いわ」
「…すまない」
「挙句、私のどこが好きかって聞いたらアンタ何って言ったと思う?」
「…お、覚えてない」
「胸、だって。胸。サイッテー」
「…」
変な汗をかいて自分の奇行に耐えつつ俯くネジ。まあ、別に全然怒ってないんだけどね。なかなか寝かせてくれなかった仕返しかな。
「ま、でも良いことも聞けたから許してあげる」
「…?」
「ふふっ」
何だそれは、とキョトンとしているネジ。だけど教えてあげないよ。
「あーあ、でもあんなレアなネジが見られるならたまには酔っぱらっても良いかなー」
「もう十分だ…」
「あはは、もう録画しとけば良かった」
…私も、他人に興味なさそうに振る舞っておいてちゃんと見てるとことか理解してるとことか、あとそうだな、私の名前を呼ぶ声とか好きだよ。これも教えてあげないけどね。
「あ、そうだ」
「まだ何かあるのか…」
「ネジって私に名前呼ばれるの好きなんだね」
「なっ…」
そんなことを言ったのか俺は…とおそらく二日酔いで痛むであろう頭を抑えて恥ずかしさに耐えているネジを見て私はまた大きく笑ったのだった。ネジの言葉を借りれば、照れなくていいのにね、だ。
20141222