17歳の記憶
※転生パロ
※リーとネジだけ前世の記憶持ち
私は16年と数か月生きてきて、未だに近しい「死」というものに出会ったことがない。もっとも「死」は人ではないから出会うという表現はおかしいけれど。ニュースや新聞やドラマ、映画以外で身近な人の死に触れたことがないのだ。
「テンテン、もうすぐ誕生日ですね」
「もうそんな時期か」
放課後、教室で油を売っているといつの間にかネジとリーも現われて、気付けば話し込んでいた。もうすぐ私の誕生日。その話題は毎年ワクワクするものの筈なのに今年は少し違っている。
「誕生日ね…」
「?どうしたんですか、浮かない顔して」
「うん、実はね、誕生日が近付くにつれて胸のあたりが痛くなるんだよね最近」
「え…」
「それ、マズいんじゃないのか?」
何故そんな大事なことを今まで隠していたんですか!と詰め寄ってくるリーに慌てて訂正を入れる。
「いや、痛いって言っても、なんかこう、じくじくというかギューっとなるっていうか」
「だからそれ危ないですよ!」
「病院には行ったのか?」
「うん…一応行ったんだけど、原因不明って。検査しても異常なかったし」
「えええ…」
「お医者さん曰く、精神的なものじゃないかって」
でも最近はとても毎日充実している。学校に友達に部活に家庭だって問題なし。むしろどうしたら精神的にくるのか必死に探っているくらいで悩みだって浮かばない。むしろこの胸の痛みが悩みなんだから。
そうして、うーん、と首を捻っていると、リーがふと、おかしなことを呟いた。
「17歳…あの年の僕らと同じ歳ですね」
え?と私が声を発するとほぼ同時。
「リー!」
それまで落ち着いていたネジが目を丸くしリーの名前を大きく呼んだ。何か戒めるような口調。思わずびくっと肩が跳ねる。
「…ええ、すいません、ネジ」
「え、何…?あの年って」
「いい、気にするな」
「でも…リー?」
「いえ…昨日見たドラマの話です」
そんなドラマやってたっけ。首を傾げるが二人からそれ以上の話は上がらない。私には、言いにくいことなのかな。すると話題を変えるようにネジが口を開く。
「テンテン」
「うん?」
「胸が、どんな風に痛いんだ」
「どんなって、だから…ぎゅって苦しくなったり泣きたくなったりずんと重くて石みたいだったり、あ、それに張り裂けそうになったり…ってやっぱり情緒不安定なのかも」
「…」
「あ、でもね、この前観た映画で私と同じ症状の人がいたの」
「え?」
「主人公の友達が死んじゃって、それでその主人公が言ってたの“胸が痛くて張り裂けそうだ”って」
私はペットを飼ったこともないし両親も親戚も知人も友人も近しい人はみんな元気で訃報を聞いたことがない。それは私が前に生きてた前世で沢山「死」を見たから今はその分少しでも見なくて済むようになってるんじゃないかしら、なんてお母さんが半分冗談で言っていたけれど。
「周りの人が死んじゃうって私はまだ体験したことがないのに、それなのにね、不思議だけど何となく、残された人の気持ちが分かる気がするんだよね」
きっとこんな感じだ。17歳に近付くにつれて痛みが増していくこの胸の痛み。誰も失ってない筈なのに何故こうして分かるのか意味が分からないけど、それでもきっとこんな痛みなんだと思う。何となく分かるのだ。
「おかしいよね」
誰もいなくなってないのに切ないなんて。まるでずっと昔につけた古い傷がじくじく痛んでるみたい。そこまで言って、何だかちょっとマジな感じになっちゃったと少し恥ずかしくなりながら笑って顔を上げ二人を見る。しかしそこで私は目を丸くした。
だって、どうして…
「どうして二人がそんな辛そうなの…?」
“テンテンごめんなさい”とリーが言う。意味が分からなくて思わずリーに手を伸ばしたが“ジュースを買ってくる”、と逃げるように立ち去ってしまった。その横顔に何か光っているものが見えた気がして。戸惑いながら“今、リー泣いてなかった?”とネジに聞く。けれど。
「ネジ…?」
ネジの様子も少し変。俯いてる。二人してどうしたっていうんだろう。私何かマズイことでも言っちゃったのかな。何が何だか分からなくてフリーズしていればやがてネジが私に手を伸ばして、私の手をぎゅっと握った。安心させるような、でも少し震えていて力強い。そうしてネジが一言こう呟いて私はもっと訳が分からなくなったのだ。
「大丈夫だ。もういなくなったりしない」
私はこの胸の痛みもネジの言葉の意味も分からなかったけれど無性に泣いてしまいたくて堪らなくなった。
20140203