ふたつ買って帰ろう




※戦争後、ネジ生還捏造

 戦争も終わって早数年。すっかり平和を取り戻した、いや、以前よりもっと穏やかになった世界で過ごす毎日。昔はバリバリ任務をこなし武器を駆使して戦っていたけれど何も私だって戦好きというわけではなかった。…いや、確かに武器とかそういうものに興味はあったけれど。

「ねえねえ、いい加減二人は進展ないの?」

そんなのほほんとした平和なある日、サクラ、いの、ヒナタと出会してお茶をすることになればそこで乙女達の話題の中心に上がるのは専ら恋の話だ。いのに今良い感じの人がいる、とかサクラと例の彼のこととか、そしてヒナタの恋の行方とか。そんな三人の話をうんうんと聞いていれば突然自分に話題を振られて、ついついた頬杖を思わず外してしまった。

「二人って、誰と誰?」

とりあえず、とぼけてみる。

「もー、分かってる癖に。ネジさんですよ。どうなんですか?」

私がひとつ年上ということもあって敬語とタメ語混じりで問いかけてくる割に意地悪な質問。あー、と頬をかきながらお茶を口に入れる。

「私達は、ほら。みんなみたいに浮かれた話はないというか、相変わらずというか」
「えー、でもどう見たってカップルだし、いい加減ハッキリさせて付き合っちゃえばいいのに…」
「むしろカップルじゃないと思ってるのって、テンテンさんとネジさんの本人二人だけだと思うけど」
「それ、言えてるー」

…確かに、戦争が終わってから少し私達の関係は以前とは違っている。一緒にいたいと、お互いに生きていて隣にいてほしいと思ってることは確かだと思うしお互いの家にも行き来して、サクラやいのが言うようにハタから見たら完全に付き合っているように見えると思う。でも、決定的な言葉はお互いないままだ。
考えてみたらお互い、いや私だけかもしれないけど、そういう大事な人をつくってしまったら、相手の足を引っ張ってしまう存在になってしまうんじゃないかと怖いのだ。チームメートとは違う、弱い存在になってしまう。…でも、もう時代は昔とは違う。世界は変わったのだから。
「付き合う、ねえ…」そう言葉を零して、また頬杖をつくとそれまでじっと話を聞いていたヒナタがおずおずと私に微笑んだ。

「でも、テンテンさんがネジ兄さんの側にいてくれるとしたら、私としてもこれ以上ない組み合わせだと思います」

そう言って彼女は静かににっこり笑った。

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 帰り道、いつもとちょっと違う道を通ってみたら小さなたい焼き屋さんを見つけた。美味しそうな匂いに誘われてメニューを覗き込めばお店のおじさんにいらっしゃいを言われ、私は何も考えず気付けば注文を口にしていて。

「おぐら、二つください」

温かい二匹のたい焼きが入った袋をぶら下げて道を行く。…なーんで私は二つ頼んだんだろう。誰にあげるっていうんだ。きっとさっき女子会で言われたことを気にしてるからだ。きっとそう。
すっかり陽も落ちた街は夕飯時で、橙色の灯りが曇りガラス越しに灯っている。登り坂になった家までの道。途中で右に曲がれば自分の家だ。そして真っ直ぐに坂を登り切れば…ネジの家。

「ネジとは、付き合う付き合わないじゃ、ないよ」

そういうものでお互いを縛りたくない。足手まといにも足枷にもなりたくない。弱い存在として側にいるくらいなら今のままでいい。…でも、だけどネジの隣にはきっといつの日かそういう、一生を隣で添い遂げる人が現れるだろう。もしかしたら私にだって。だとしたら、その相手は…

「テンテン?」

名前を呼んだ。聞き慣れた声が私の名前を。ゆるりと顔を上げれば坂の上。ビニール袋を片手にぶら下げたネジ。気付けば、自分の家に向かうための角は通り過ぎている。これも無意識だと、まだそんなことを私は言って誤魔化すのだろうか。ガサ、自分が片手に持ったたい焼きの袋が音を立てる。ネジは自分を見上げたまま動かなくなった私を不思議そうに見ている。…私は、何で途中で曲がらなかったんだろう。

「私、ただ、ネジとたい焼き食べたくて…」

理由をつけて会いに行きたくて、たい焼きも一緒に食べたくて。今まで難しいこと、足枷になるとか弱くなるとかそんなこと色々考えてた。でもそんな理屈も言い訳もどうでも良くて、結局のところ私はただ、シンプルに

「一緒にいたいよ」

口にするのは簡単だった。すると目からボロボロと涙が溢れてくる。こんな風にネジの前で泣くなんて初めてのことだ。どんなに辛い任務のときだって修行のときだって見られないように隠れてないてたのに。その苦労も水の泡だなあ。やっぱり弱くなったのかもしれない。でもそんなことよりも、将来、未来のことを考えたらときにお互いの一番違い隣に知らない誰か自分以外の人がいるなんてそんなの耐えられないくらい嫌だ。そんな相手は仲間でも恋人でも私の隣にいるのはネジじゃなきゃ嫌だしネジの隣も私じゃなきゃ嫌だ。
子供みたいな我儘で子供みたいに泣き始めた私にネジが珍しく驚いて坂を下りてくる。そしてそっと私の頬に手を当てて顔を上げさせる。少し、困った顔。

「どうした、何かあったのか?」
「私、ネジと一緒にいたい」
「俺と…?」
「仲間としてもそうだし、それ以外の存在としても、一緒にいたい」

だからたい焼きも二つにしたの。そう、ネジにしたら意味不明なことを付け足せばネジは目を丸くして驚いた。そして間も無く自分の持っているビニール袋をガサガサと開けて、中から中華まんを取り出す。

「さっき、表の通りで見つけた」

袋から出てきた中華まん。それが、その数が今の私にとってとても重要な数だった。

「…ふたつ」
「ああ。気付けば二つ、買っていた」

そう言って困ったように少しネジが笑って、そしてその後、明確に私達の関係を変える言葉をシンプルに口にした。
 付き合うこと自体、こんなに簡単な言葉同士なのに私達考え過ぎてたのかもね。なんて思ったけど、でも沢山、沢山考えて辿り着いたんだから間違いなんてあるわけがないと、私はそう思うのだ。何より私とそしてネジの未来にお互いがいられることが今は何より嬉しいのだから。

20150321



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