いってらっしゃい




※現パロ

朝起きると既にストーブが焚かれていてコーヒーの香ばしい香りがしていた。むくり、とベッドから上体を起こしてリビングに行くと案の定、先に起きて色々と動いていたらしいネジが私に気付いて「早いな」と一言。それに返事をする前に壁にかかったカレンダーに目を向けると確かに今日は赤い色の日曜日。あれ、ネジ休みの筈なのに。

「やけに起きるの早くない?」
「言っただろ?今日は休日出勤だ」
「そうだっけ」

ぼけ、とパジャマのまま虚ろに口を開いていれば「寝てて良いって言ったのに」と呆れ笑いでネジが言う。

「もう朝ごはん食べた?」
「食べた。テンテンの分は冷蔵庫に入ってる、と言ってもウィンナーをボイルしただけだからトーストでも焼いて食べてくれ」
「そりゃあまあご丁寧に…」

どうやら殆ど九割型ネジは出掛ける準備が整っているらしく、後は上着を羽織り鞄を片手に靴を履けばさようなら、状態だ。少しは役に立とうとネジの着ていくであろう上着を寝室のクローゼットから出して手渡せばスルリとそれに腕を通した。

「もう上着着る時期になっちゃったね。この前まで暑い暑い言ってたのに」
「そうだな」

羽織ったコートのボタンを留めようとするネジ。なんとなく、それをやりたくなった。「やりたい」と手を伸ばすと「何を」と動きを止めるネジ。それに「ボタンやりたい」と明確に意思を伝えると“どうぞご自由に”とでも言うように両手を軽く肩の位置まで上げたので近寄って下から順にボタンをかけてみる。

「ボタン、下からつけるんだな」
「小さい頃から上からつけると掛け違えるからお母さんがアンタは下からつけていきなさい、って」
「それ、想像出来るな」

ぷち、ぷち。ひとつずつ正確にかけていく。

たまに、何故か、時々、思うことがある。朝、ネジを家から見送る時。ネジがこのまま出て行ったっきり帰ってこないんじゃないかって。そんな馬鹿らしいこと。何故だかたまにそう思う。今の今まで笑ってたけどある日突然いなくなっちゃうんじゃないかと思う時がある。そういう不意に現れる私らしからぬネガティヴな思考はブンブンと頭を振ることによって払拭し、実際に「行かないで」と引き止める行動には移らないようセーブしているけれど。私ってこんなに心配性だったっけ。どうしてかネジに対してはそんなことをたまに思ってしまうのだ。

「ネジ」
「?」

そういうときの、私なりのおまじないがある。

「今日の夜はステーキにする」
「もう夜ご飯の話か」

仕事で遅くなっても良い。疲れて帰ってきてそのまま寝てしまっても良い。ただ、帰って来てくれさえすればそれで。だから夕飯の話をする。絶対に帰って来て。待ってるから。そうして全て掛け終えたコートを手の平でぱっぱと払い皺を伸ばす。ネジならきっと大丈夫だ。私の認めた男だもん。さあ、今日も私は笑顔で見送ろう。

「いってらっしゃい」

しかし同時に思うのだ。この不安は何十年後も私の頭の中から抜け切ることはないのだろうと。

20151017


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