二人の距離感について




「前から思ってたんだけど、ネジはその匂いどうにかしたら?」

演習場で胡座をかきつつお気に入りのクナイを磨きながら先程、組手をした時に思ったことを口にするとその場にいたリーと、そして当人のネジがくるりとそれぞれ私に振り返った。

「匂い?何のことだ」
「何って、そのままだけど。ネジの匂い」

分からない、とでも言わんばかりに眉間に皺を寄せて小首を傾げるネジに何をすっとぼけてと私も眉間に皺が寄る。どうせその女顔負けの美しい髪を保つ為に日向家特製…なのかは知らないけれど兎に角良いシャンプーでも使ってメンテナンスをしているのだろう。匂いと言っても不快なものではなくむしろ良い匂いがするし私も好きな香りだ。けれど私達は言わずもがな忍だし、匂いなど敵に居場所を教えるようなもので無臭に越したことはない。幸い今まではその匂いで跡を辿られることはなかったが今までがなかったからといって今後一切無いとは限らない。

「別にね、良い匂いだから嫉妬してるとかじゃなくって、仲間としての忠告なんだからね」

…後は最近、まあなんというか仲間以上の関係になりつつある部分もあるので余計に心配なのだ。リーがいるから表立っては言わないけれどこの乙女心察してくれ。しかしその場に居合わせたリーと、そして肝心の当の本人は私の発言に対し、てんで分からないといった表情で更に首を傾げる。もう、そういう時だけ気が合うんだから。

「ネジって匂いなんかしますか?僕にはあまりよく分かりませんが…」
「勿論、香など焚いてないぞ。気のせいじゃないのか」
「ええ、無臭ですね。ネジは」
「だろう。俺もそう思うが」

そんな馬鹿な。何を言っているんだ二人して。私はふざけてるわけでもなくて本当に心配して言っているのに。納得いかず私はスクッと立ち上がるとその勢いのままネジに直進し、ぐっと身を近づけた。ネジが私の勢いに少しだけ後退りしたが構わずその顔の横、首筋から髪にかけての辺りに顔を寄せると鼻から息を吸い込む。

「ほら、やっぱり。このくらいの距離だとよく分かる」

ね!と顔を上げてその瞬間“しまった”と思った。ネジが「お前…」とでも言わんばかりの顔で変な汗をかいていて状況を客観視する。そ、そうか…私がネジの匂いを感じていたのはこのくらいの距離になることがあるからだ。二人を納得させる為に深く考えずに行動してしまったがそんなに抱き合うくらい近寄らなきゃ分からないような匂いをどうして…という話。壊れたブリキのオモチャの様にギギギとリーに顔を向ける。

「なるほど…」

リーが大真面目な顔をして顎に手を当てた。こ、これは…流石に怪しまれたか。リーとはいえやってしまったか。いや、まあ隠しておく必要はないのだけどリーに伝われば自ずとガイ先生に伝わって、人間拡声器みたいなあの人のことだ。里に知れ渡ったも同然じゃないか。それでは色々やり辛い。いや、ガイ先生のことだから案外デリケートな話は内に秘めておいてくれるかもしれない。ネジの家のこともあるし…しかしなんというか、やっぱり気恥ずかしいじゃないか。リーやガイ先生に知られるのは。昨日や今日からの付き合いじゃないんだから。だらだらと汗をかきそうになっていたその時。

「組手ですね」
「…はい?」

ぽん、と拳を手のひらで受けるリー。その口から予想外の単語が飛び出したではないか。組手?何が?何か納得しているようだが私達にも分かるように説明して欲しい。

「テンテンはさっきネジと組手して至近距離になった時にネジの匂いに気付いたということですね。流石です。僕は全然気付くことが出来ませんでした」

やはりそういう繊細な部分はくノ一のみなさんに見習うべき改善点ですね。とひとりで燃えながらメモを取るおかっぱ頭に私もネジも呆気に取られてしまったがやがて安堵のため息。

「まあね…いや、でもほんと、ネジは気を付けてよね」
「ああ…自分では分からなかったな。微かな香りのようだが気を付けよう」
「そうだ!僕はどうですかテンテン」
「ええ?」
「僕も何か匂うようであれば直さねばなりませんから」

ええー?と今度はリーに近付いて行き、同じように肩口を顔を寄せる。別にネジのように良い香りはしないけれど…

「…なんというか、お日様と土と汗の匂い」
「もう良いだろう」
「うわっ」

リーの匂いを口頭で伝えていると首根っこをネジに掴まれべりっとリーから引き離された。あっ、何よ、ヤキモチでも妬いてるの?珍しく。全く…と私を見下ろすネジに、べっとイタズラっぽく舌を出す。そしてリーは「お日様と土と汗…」と私の感想を復唱しつつ腕を鼻に寄せてすんすんと匂いを嗅ぐとニカッと笑いながらいつもの台詞を言い放った。

「青春の匂いですね」

…私達のことを察して言ってるんじゃないわよね、と笑顔の裏をかきそうになったが、きっとリーは深く付き合っているチームメイトの速報をこんなに器用に受け止められる程、器用ではないなと自己完結したら笑えてきてしまった。「まあ、その匂いなら忍としては問題ない範囲だろ」と腰に手を当ててネジが軽く笑った。

20180309


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