素敵な贈り物を頂戴
「リー、ネジ。マズイぞ」
夕刻からの任務ということで招集され里の門まで行ってみればそこで待っていた担当上忍が深刻そうな表情で開口一番そんなことを口にした。これは大変珍しいことだ。どんなことに直面しても突破してやるという勢いの人物がそんなことを言うなんて。一体何が起こったのか。それともこれから向かう任務がそんなに過酷なものなのか。隣にいたリーがゴクリと喉を鳴らす。
「い、一体何があったのですかガイ先生。何がマズイんですか?」
「…そうか。その様子じゃお前らも忘れてるな」
「?一体何を…」
一体俺たちが何を忘れているというのか。勿体ぶらずにさっさと言ってくれと頭の片隅で思ったと同時に漸くその答えが返ってきた、のだが、それは俺が思っていたような内容とは全く的外れのもので、思わず数秒フリーズしてしまった。
「今日は、テンテンの誕生日だ」
数秒おいて、あ、と横から声がした。…どうやらリーも忘れていたらしい。“リーも”ということは、そうだ。つまり俺も忘れていた。
「ど、どうしましょう…!いつもテンテンは僕等の誕生日には必ず声を掛けてお祝いしてくれているというのに…!忘れていたなんて最低です!」
「ああ…俺もさっき任務依頼を受けた時に今日の日付けを確認して気付いたんだが…」
「これから任務だぞ…」
幸か不幸か、テンテンはまだこの場に来ていない。午前中に里内での軽い任務が入っていると言っていたからその関係で遅れているのだろう。…さて、どうしたものかと男三人で頭を抱える。側から見たら可笑しな光景だ。
「これから何かプレゼントを買うにしても」
「任務の邪魔だろうし買いに行く時間がない。もう後十分もすれば里を出る」
「任務の後に食事に誘うにしても」
「今回の任務は泊りがけになるだろう…」
最悪、とはこのことだろうか。せめて誰かしら午前中に気付いていればどうにかなったかもしれない。任務でも使えそうな忍具や、邪魔にならないようなものを贈ることだって出来ただろう。そう。そんな気の利いたプレゼントを選ぶ時間があれば。
あれやこれや、こうしたらどうか、ああしたらどうか。知恵を絞って考えを出すが結局は平行線。さて、どうしたものか、とお手上げ状態になっているとき、その場にひとつの声が届いて俺たちを凍らせた。
「ごめーん!遅くなっちゃった!」
里の方から手を振って張本人。テンテンが現れた。楽しそうに駆け寄ってくるテンテンとは裏腹に俺たちは情けなく固まり立ち尽くすのみ。そして近くまで来たテンテンが俺たちの表情を見て首を傾げる。
「何?三人してそんなに深刻そうな顔して…何かあったの?」
「い、いや…」
どうするんだ、と目線を合わせると、何やら覚悟を決めたようにガイ先生が深く頷いた。
「テンテン…!」
「うわっ、は、はい?何?」
力強く名前を呼び、ガッとその両肩を掴む。そして
「すまん!今日はお前の誕生日だというのにすっかり忘れていて何の準備もない!」
先程まで頭を悩ませて考えていたのは何だったのかと問いたくなる程に直球で白状したガイ先生に頭を抱えた。するとテンテンは暫くポカンと口を開けていたがその内「なあんだ、そんなこと」とポカンとしたまま声を出した。
「三人して深刻そうな顔でそんなこと話し合ってたの?何事かと思っちゃった」
「そんなことって誕生日は重要なことだぞテンテン!」
「わ、忘れてたくせに…」
「そ、それはだな…!」
「あはは、本当に気にしてませんって。そもそも鈍感なうちのチームのメンズにそんな期待なんてしてないし!」
「む、胸に刺さりますね…」
「…」
プレゼントも何もないというのに楽しそうに笑う機嫌の良いテンテン。こうなるとますます申し訳なくなってくるというものだ。しかしそんな俺たちの気持ちを察してかは定かではないが俺たちに真正面から向き合いテンテンがこれまた楽しそうにこんなことを口にした。
「じゃあさ、プレゼントに私の質問にひとつ、答えてよ」
「質問…?」
「そう。簡単なことだから」
何か裏があるのか、なんて一瞬ほんなことを考えたがそれは大外れで見当違いもいいところ。「勿論だ。何でも答えるぞ」といわゆる“ナイスガイポーズ”をしたガイ先生の言葉に続いてテンテンは俺たちにその質問をしたのだった。
「私が生まれてきて一緒のチームになれて、三人は幸せ?」
にっこり。いつもは男勝りな俺たちの紅一点が少しだけ頬を染めてそんな質問をしてくるものだから。その場にいた全員が今度は違った意味で固まった。俺も、そしてこのチームの誰一人としてこいつには敵わない。そんな風にさえ思えて。ああ、そうだな。班員がきっとこいつ以外だったらこのチームは…
そこまで考えるまでもなく、理由付けも何もなく、気付けば俺たちは笑ってその問いに答えていた。
20150310