おでん始めました




最近すっかり冷え込んできた。
街はそんな話しで持ちきりだった。ニュースでも街でも寒い寒いとみんなマフラーに口を埋めるのだ。まあ、でも確かに寒い。かくいう私も学校指定のマフラーを口元まで引き上げて少しでも寒さを防ごうと必死だ。

高校三年生の冬。所謂お受験というやつだ。私はこの街から五駅離れた短大に推薦で合格が決まっている。同じクラスで仲良しの女友達も同じだ。一般入試組も大半が漸く終わって結果もほとんど出ている。身の削れる長い受験戦争が終わって後は残りの高校生活を楽しむだけ。なのにこの残留感は一体全体何なのか。

「何なのか、っていうか確実にあの二人のせいだ…」

放課後の昇降口。テスト期間中でもうほとんど人のいなく、埃臭いそこで私は何をしているのかというと、待っているのだ。私の残留感の原因である二人を。

「早く来なさいよぉ…」

昇降口を出たすぐ前の階段に座り膝の上に乗せたスクールバックの上にパタン、と腕枕で頭を置く。びゅうびゅうと冷たく吹いてくる北風が辛い。あーあ、こんなに寒いなら自動販売機でコーンスープなりおしるこなり買っておくんだったな。あ、ココアも良いかも。頭の中であたたか〜い表示のされたドリンク達を羅列させていると、後ろから聞き慣れた声が北風に乗って耳に届いた。

「テンテン…?」
「…漸く来た」

お待ちかね。聞こえてきた低音に一応振り向けば案の定そこにはお目当ての人物その1。人物その1、通称ネジ君は私と同じく学校指定のマフラーを巻いて腕章刺繍の入ったピーコートを纏いながら不思議そうに私を見ていて、どうして私がここにいるのか分かっていないようだ。…まあ、そりゃあそうだよね。

「おっそーい。もう待ちくたびれた」
「…待ち合わせなんてしてたか?」
「してないけど察してよ、もう」
「無茶苦茶言うな」

無茶苦茶だと言いつつもネジは鞄を肩から降ろしつつ私の横に腰を降ろした。付き合い良いんだか、悪いんだか。ちょっとおかしくて笑えた。吐いた息が白い。鼻の頭も赤いんだろうなあ。すん、と鼻を啜ると「で、」とネジ。

「何かあったのか」
「ううんー。なーんにも」
「…何だそれ」
「別に何もないんだけど久し振りに、たまには三人で帰らないかなと思って」

だから待ってたの。
そう言ったとき、ネジが内心「たまに可愛げのあることを言うんだよな」と思ったことは私が知る由はない。「そうか」と短く答えたネジに「うん」と返して。二人で肩を並べる放課後。

「リー、早く来ないかな」
「もう先に帰ったんじゃないのか?」
「ううん。“サクラさんの荷物運びを手伝ってきますー!”って言いながら二年の校舎の方に行ったのここで見たから。それから出てきてないし」
「それ、いつの話だ?」
「んー、4時くらい」
「お前…30分も前からここにいたのか」
「な、何よ。悪い?」
「風邪ひくだろ…普通の人間なら」
「おあいにく様ー。私は鍛えてるからそんなヤワじゃないの」
「…もし熱出して残り少ない登校日を休んだら後で後悔するのはお前だろ」
「…そういうの分かってるとこ、ムカつく」
「それはどうも」

確かにここで風邪でもひいて残り少ない高校生活を休んだとなったら後で勿体無く思うことだろう。少しでも思い出を作っておきたいのに何で風邪なんかひいたんだろうって。悔しくて泣いちゃうかも。そんなところを理解されてることが悔しい。ふん、とネジから顔を背けているとネジが「来たぞ」と軽く後ろを振り返った。

「あれっ、ネジとテンテンじゃないですか。座り込んで何してるんです?」
「あんたを待ってたのー!もう超寒かったんだから!」
「えっ?ええ?何か約束してましたっけ?」
「してないけど!察してよね」
「無茶ですよテンテン…!」
「本当に無茶だな。しかもこんな寒空でひとり待ってたそうだ」
「えっ、風邪でもひきたいんですかテンテン」
「風邪はひかないらしいぞ?」
「ああ、ナントカは風邪ひかいないというあれですか!」
「殴るわよ!」
「あはは、冗談ですよジョーダン。ね、ネジ」

で、どうしたんですか?と小首を傾けるリー。本当は一緒に帰るだけって思ってたんだけどこんな寒い中ひとりで長いこと待ってたのにこのまままだ帰るだけなのは癪になってきた。何か温かいものにしても缶のジュースじゃ味気ないし…あ、そうだ。

「ね、二人とも。おでんでも食べようよ」

おでん?
突然の提案に二人してキョトンとするものだから面白くて笑ってしまった。

---

それから二人の手を引いて学校を後にする。とりとめもない会話をしながらいつもの道を歩いて、そうしたらコンビニが見えてきて。入ろうと促せばリーが笑った。

「おでんって、コンビニのおでんですか」
「良いでしょ?美味しいよね」
「ええ。今年初めてです!良いですね」

ウイーンと自動ドアが開き店内に入れば、サイッコーに温かい温度が冷えた体を包んでくれる。店員の「いらっしゃいませー」という元気な声を聞いて私達は一直線にレジ前にあったおでんブースへ向かった。ホカホカと湯気をたて良い匂いで「私は美味しいです」と主張するおでんの具達。さあてどれにしようかな。ここのコンビニは自分でトングを使って取りレジへ向かうタイプだ。発泡スチロールの器を片手にカチカチとトングを景気良く無駄に鳴らしてみる。

「まずは玉子よねー。後はシラタキにハンペンに…」
「僕は俄然大根ですね!」
「ネジは…昆布。相変わらず渋いんだから」
「…悪いか」

ひょいひょいと各々好きな具を入れて最後におたまを使って露を注げば完成だ。レジへ持っていけば店員のお兄さんがカウントしながらお会計をしてくれた。あ、カラシも忘れちゃ駄目だよね。

やっとゲット出来た温かいものを手に満足しながら店外へ。さっきまで寒くて堪らなかったのに不思議。おでんがあるだけで心強く感じるのだから単純だ。
もぐもぐとそれぞれ思い思いのものを頬張って白い湯気を出しながらおでんを食べる。そんな何でもないこの光景がもう少しで当たり前じゃなくなるんだとアンニュイな思考が戻ってきて。柄にもなくしおれた声を出す。

「…来年からみんな別々だね」

考えてみれば当然だった。
リーもネジもそして私も元はタイプがそれぞれ全然違う。考えも性格も全然似てない。そんな三人が高校を卒業して分岐点に差し掛かったとき、同じ道に行けという方が難しい。きっとキャンパスライフは順風満帆だ。この二人がいなくても滞りなくやっていけるだろう。……でも

「テンテン」
「…」
「またいつでも三人で、おでん食べに行きましょうね」

にっこり、笑ったリー。
いつも熱血とかやいやい煩いのにこういう時は人の気持ち汲むの上手いんだから。そしてそのまま視線をネジに向ける。じっと見つめてみればやがて

「寒い中、待ち伏せするのはナシだけどな」
「そうですよ!いくらテンテンでも風邪ひきますよ!」
「いくら私でも…って何よ!…ぷ、あはは、もう、しょうがないなぁ」

仕方ないからまた誘ってあげる。
そう言って笑い合って口にしたおでんはさっきよりじんわり味がして口の中に広がった。私達なら離れても大丈夫だ。



季節は流れ、長い冬が終わり春、そしてそのまま梅雨を経て夏、秋を迎えた。もうすぐ衣替えをしてコートやマフラーを出さなくちゃ。そんな時期になるとふと思い出す。寒い中で鼻の頭を赤くして食べたおでんの味。
あの二人とはやはりなかなかお互い忙しくて以前のように頻繁には会えていない。でも大型の休みの時は遠出したり、時間を見付けては食事に行ったりとしているけれどここ最近は全然会えてないな。…そう思うと人間とは不思議なもので、無性に話がしたくなってきた。電話、しようか。でも、そうだな。

私は薄手の上着を羽織り家を出て自転車に跨った。目的地はふたつ。あの日と同じ順番だ。人物その1の彼が一人暮らしをしているアパートの前まで来て自転車を止め電話をかける。二階にあるネジの部屋は電気が点いている。数回のコール音の後、『…はい』と低い声。

「こんばんは。私だけど」
『ああ、知ってる。どうかしたか』
「すっごく重要なことなんだけど」
『ああ』
「コンビニでバイトしてる友達がね、おでんが始まったって言ってた」
『…は』
「つまりね、あー、とりあえすベランダ出てみてくれない?」
『…お前まさか』

程なくして、シャとあいたカーテンと窓、そこからネジが姿を現してこちらを見下ろした。私はニッと笑って電話越しに伝えたのだった。

「おでん、食べに行きませんか」

20141208

おでんはじめました


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