巡る朝の煩悩
朝、不意に目がさめた。窓の外からの朝日が眩しかったのできっとそのせいなのだと思う。時刻を見やればまだ午前5時をまわったところ。今日は非番だからまだ寝られる。そんなことを虚ろな頭で考えていると何か隣から違和感を感じた。半分閉じた目を違和感の方に向ける。違和感?それもそのはずだ。これで何も気付かなかったら俺は忍として失格だ。
「何をしているんだこいつは…」
思わず頭を押さえる。なにせ自分ひとりしかいない筈の部屋、しかも自分が寝ているベッドによく見知ったチームメートの女がスースーと寝息をたてながら寝入っていたのだから。本当に何をやってるんだこの女。男の部屋で完璧に寝入るなんて不用心にも程がある。
「…」
明かりをつける気にもならずそのまま固まる。さてどうしたものか。何故ここにいるのか、どうやって入ったのか。聞き出したいことは山ほどあるが気持ち良さそうに寝ているこいつを見ていると叩き起こす気にもなれない。…俺も大概あまいな。とりあえず上体を起こして見下ろすように上からこいつの処置を考える。そしてひとつ気付いた。こいつ、何で俺の部屋着を着ているんだ。どうりでやけにでかい服を着ていると思った。どこから出してきたんだ。そう半ば呆れていると、ごろん、ぱたり。テンテンがいきなり寝返りをうって仰向けになった。そして腕が当たってしまったらしく「ん」と小さく漏らした声に、別に疚しいことをしているわけでもないのにマズイと反射的に腕を引いた。起こしてしまったか。そう思ったがまたスヤスヤと寝息が聞こえてきたのでどうやら大丈夫だったようだ。再び気持ちよさそうに眠るテンテンを何故かずっと見ている自分に気付く。さっきまで体勢とサイズが合っていない服のせいで分からなかったことが目についてくる。おろし髪に伏せられた焦げ茶色の瞳。仰向けになったことによって服が形取っている呼吸する度上下する、胸。シャツが黒いことと朝日が手伝って、見えている肌がいつもより白く見える。それに触れたくて、手の甲で頬を滑らせれば自分のものとは違う感覚。白く浮き上がってくるような鎖骨に引き寄せられて近付く。体温を感じる距離。なんだかこんなに近くにいることが不思議だ。そういえばよく隣で人がいて寝れていたな俺は。こ隣で布団に入って朝日に起こされるまで気付かなかった俺も、こんなに近くに寄られても俺に気付かずに眠るこいつも忍失格か。それとも…。そんな事を考えている。そして唇が肌に触れそうになった時、くんっと服が引っ張られ同時にクスクスと笑い声が聞こえてきた。まさか起きているのか?そう思いとっさに顔を上げたがやはり寝ている。何か面白い夢でも見たらしい。夢の中でまで笑っているなんてますますテンテンらしい。呆然とそんな幸せそうに眠っているテンテンの寝顔をただ見るばかりしか出来ずに固まる自分。そして下を見ると案の定こいつの手が俺の服の袖を掴んでいた。
「…」
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「ん…?あれ…?」
もう何時間こうしていただろうか。もう太陽は完全に昇っている。漸く目が醒めたらしいテンテンが目を擦りながら上体を起こしてベッドから少し離れた椅子に座っている俺を探した。
「おはようネジ……って、ネジ?どうしたの?」
俺が朝っぱらから巡らせていた煩悩など知らず、能天気なキョトンとした、しかし何か変なものを見るような顔で、自己嫌悪に俯き頭を膝の上に乗せている俺を見て首を傾げる姿を見て、深くため息をついて再び頭を押さえたのは言うまでもない。言ってやりた文句は山ほどあるがとりあえず半分以上は言えないで終わるだろう。これくらいは言わせてもらおう、
「お前、何をしてるんだ…」
いや。俺が何やってるんだ。
20110213