心
長期任務だとは聞いていたが内容もそれなりのものだったらしい。怪我を負ったテンテンとその班員達が病院に運ばれてきたとの話を聞いた。心配したリーから任務で直接見舞いに行けないのでと言付かった花と、それを渡しに行く途中で買った団子を持って病院へ向かった。病人に団子というのも何かアレだがまぁ聞けば重傷ではないようだし好物を持っていけば間違いはないだろう。そんな思いで軽くノックをして病室の戸を開けた。
「入るぞ」
「ネジ…?」
一言でいうと予想外だった。きっと見舞いに行けば、しくったなどと笑いながら迎えられると思っていたのに。そこにはベッドに横たわり、辛そうに点滴をつけている姿があった。そしてその表情には予想していたいつもの明るい笑顔はない。
「お見舞い来てくれたの…?」
「あぁ。大丈夫か…?」
「うん。大丈夫」
どうやら“大丈夫”らしい。まあこいつの大丈夫は必ずしも信用出来るものとは限らないが見たところ本人が言うとおり外傷はさほど大したものではない。
「熱があるのか?」
「うん。傷口から菌でも入ったみたい」
「結構…高いな」
ひたりと額に手を当てると突然のことに驚いたのか一瞬ビクリと肩を跳ねさせた。まぁここは病院だし俺が処置するまでもないししてやれることもここではそれ程多くない。そっと手を引き、ベッド横の椅子に落ち着く。…やはり何か様子がおかしい。すると俺を見る目が瞬く間に濡れていった。潤んだ瞳を隠すように片手を目の上に被せる姿を見て自分が泣かせたのかとギクリとする。が、いつもと明らかに違う姿にやはり何かあったのだと察する事が出来る。話を聞こう。それくらいしか出来ない。落ち着いて聞いてやる。静かに名前をひとつ呼ぶ。
「テンテン」
「…」
「無理はするなよ」
いつものように感情を出せばいい。言葉数は少ないがこいつになら伝わると思った。そしてテンテンが静かに口を開く。
「温かかったの」
温かかった。キーワードがひとつ上がる、が、まだ話の内容も突然の涙の訳もそこからは全て読み取れない。テンテンのペースに合わせて焦らずに次の言葉を待つ。窓のクリーム色のカーテンが風でふわりと泳いでいる。時間はつもよりゆっくりと流れている。
「敵、だったんだけどね。私もやらなきゃ殺される状況だったし。後悔したりはしてないの。それが忍だし」
「…」
「そんなこといつものことなんだけど。でも追い詰めて決定打を入れる瞬間にね、その人言ったの」
「お母さんって」
ようやく話が見えた。どんなに鋭い目を持っていたってこいつの考えは分からないのだから笑ってしまう。何故気がつかなかったんだ。目を隠している手の平に赤く残っている痕は紛れもなく苦しみに耐えるため爪が食い込み血が出るまで拳を力いっぱい握ってついたものではないか。そう。こういう奴なんだ。いくら精神訓練を受けていても心と人間とはどうにも切り離せないらしい。その心を必死に抑えてこいつはこうしてここに帰ってきた。
「私が奪った。あの人にも私と同じように家族がいて大切な人もたくさんいて…それなのに私はそれを奪って自分を守って生かしてる」
どうしてかな。と肩を震わせながら話すテンテンが俺の目に酷く弱い存在に映った。そして“忍だから”なんていう答えは俺の口からは出てこない。そんなことを言っている本人が一番分かっている。きっと今のこいつには感情がとてつもなく邪魔なのだろう。しかし心も何もない忍なんてただの機械でしかない。時にはその方が良いと思えることもあるかもしれないが俺は、そんなように温かい涙を流せる心を持ったお前が大切で温かい。そんな奴だったから俺はここまで…
「テンテン」
「何…?」
「今日、何の日か分かるか?」
「…うん」
感情なんてものを持ち合わせて生まれたことが苦しくなることもあるが、そんなお前が生まれてきてくれて俺は心から、
「誕生日おめでとう」
嬉しい。
「これはリーからだ。それでこれが俺から。ガイは遅れるが直接来るそうだ」
「病人に団子って…まぁ食べるけど」
「…言うと思った」
「ネジ、ありがとう」
「……お前の誕生日なのに俺が貰ってばかりだな」
「?お団子はあげないわよ」
「…いらん」
20110309 心