恋しい




「そんな…どうしましょう」
「今回の任務に白眼なしでどう…」

周りの班員が焦りと絶望交じりに会話する声が聞こえる。先程の戦闘で受けた敵の攻撃で目を負傷した。正確にはギリギリで交わし右瞼の上だが流石に右の目は開けられない。ということはつまりこの白眼も使い物にならないということだ。そして敵を殲滅した後にその事実を知った今日組んだばかりの班員達は慌て始め忙しそうに論議をしている。当の俺は傷ついた右目を手で押さえながらか妙に落ち着いていた。
「おそらくここまで来てしまえば敵もそう多く配置されてはいないだろう。先程の戦闘で敵の行動パターンは割れたわけだからもうそこまで慎重に進む必要もないだろう」
妙に落ち着いたまま、眉間に皺を寄せて話し合う班員達に向かって言葉を発するが「でも」や「しかし」「もし万が一」という言葉が語尾凋み気にパラパラと返ってくるだけだった。よくある光景だった。今まではなにもなしに戦っていたが一度このような、そう俺の白眼のように察知能力の高い力の持ち主と任務を共にするとそれがなくなった場合不安になる。自分自身はこのようなときのために眼だけを頼りにした修行は積んでいない。それでなくとも昔から体術の使い手が何故か多く集まっている環境にあったため体術にも長けていると自分の中に自信にも近いようなものがあるのでこの能力が封じられてもそこまで焦ることもなければ絶望することもない。ただやはり周りからすると俺は白眼という印象ばかりが先行しているようだ。負傷した本人が周りを落ち着かせるというこの光景が何やら可笑しかった。

「ネジさん…」
「何だ」
「一旦里に戻って体制を立て直した方が良いでしょうか…」

戦況はそんなに悪くはない。里に戻る?ここまで、敵の本陣を目と鼻の先にして?落ち着けば分かることだ。敵の本拠地とはいえもうほとんどの敵をここへ辿り着く前に伏せてきた。情報が正しければもうこの本陣に敵はそう多くいない。ここまで来たら察知も何もないだろう。切り込んでいくしか。普通であれば判断出来る状況だが、敵の本拠地に潜入するということが先へ先へ進んでしまっているのだろう。
頭が痛い。もう何も話したくはない。言葉を投げかけてもどうせ曖昧で弱腰の返答しか返ってこないのだから。おかしくなりそうだ。

「ネジ、なにボケっとしてんの?」

声がした気がした。眼をつむって風を受けたら微かに聞きなれた声が。ここにいる筈がないのだが。それはいつか聞いた声。あぁあれはいつだったか。そういえば前にも今と同じ様なことがあった。あれはまだ俺もあいつらも下忍で。ガイ先生と戦禍で逸れたときだったか。今日と同じ様に怪我を負って開眼出来なくなった俺と頭を打って地面に横になったリー。そしてそんな俺達を心配そうに眉をハの字に下げて見るテンテン。

「大丈夫?あ、ちょっとリー、まだ動いちゃ駄目よ。フラフラなんだから」
「包帯なんて大袈裟ですテンテン…」
「血出てるんだから当たり前でしょ!大人しくしてなさい」

立ち上がろうとするリーの肩をぐっと押さえつけ横にさせ、頭に包帯を巻くテンテン。その斜め後ろの岩に座り眼を押さえ、その光景を何も考えずになんとなしに見つめる俺。するとリーの処置が終わったのかクルリとこちらを向くテンテン。

「で、ネジ。あんたは?」
「…眼の上を切った」
「開眼は?」
「…無理だな。当分」
「ちょっと見せて」

スっと俺の前に腰を下ろすと顔にかかる髪を左手で避け傷を見る。はじめの内はいちいち「世話をやくな」などと振り払ったりもしていたがもう抵抗しても無駄だということがこの何年かで分かったので無駄なことはしないようにしている。

「うん、出血はそうでもないわね。血止めの薬を塗っておけば問題なさそうだわ」
「…しかし眼はもう当分使えない」
「使えたとしても今は使わせないわよ。そんな悪化しそうなこと」

正直に今の己の状況を伝えると慌てるでも焦るでもなく腰についたポーチから血止めの薬を出してその蓋を取り薬を薬指につけた。その光景を他人事のように見ていると、はとなったテンテンが遠慮がちに声を落として「平気?」と尋ねた。最初は何のことか分からなかったが自分の傷の位置が額に近いこととテンテンの表情で察しがついた。他人に額を触られるのを嫌がる俺への気遣いだと分かった。気を遣われるのはあまり良い気はしないのだが何故か全く嫌な気はしなかった。「ああ」と短く返すと一呼吸置いたあとそっと傷口に薬を置いた。

「…あと五分もしたら出るか」
「…さっきリーも同じこと言ったわ」

俺の言葉にテンテンは眉間に皺を寄せて呆れた顔をした。眼は当分使い物にならないがいける。体は動くのだ。そう伝えるまでもなくテンテンはふうとため息をついて立ち上がった。持っていた血止め薬に蓋を閉めポーチに戻す。そしてポーチから最近買ったという武器を扱うとき滑り止めに使う黒いグローブを取り出して指に通し装着した。その一連の動作をまたぼうっと見ていると視線に気付いたテンテンがこちらを見た。そして

「ネジ、なにボケっとしてんの?」
「ボケ…ってお前な」
「行くんでしょ?」
「…あぁ」
「どうせあんたら止めたって止まらないんだから」

世話するこっちの身にもなってよ。とまたため息をつく。そう長年一緒に修行してきたんだ。俺に白眼がなくても、リーに負傷というハンデがあってもお互いの実力を努力を知っている。そう。はじめからこいつらはひとつのものに頼りきって戦うなんてことはしていない。だから進める。

「悪いな」
「…そう思うならもう怪我しないでよ」
「あぁ」

あの光景が、空気が懐かしい。
気付くと頭の痛さはどこかへいっていた。過去の記憶に思いを伏せている場合ではないというのに。眼が使えなくなると呆ける癖でもあるのか。こんなところをあいつに見られたらまた背中を叩かれ同じことを言われてしまう。フと自然と緩んだ口元をそのまま動かし落ち着きを失くした班員を諌める。そうしたらまた立ち上がろう。あのときのように。

「また助けられたな」

帰ったら団子でも買って渡しに行ってやろう。まずは突然どういう風の吹き回しだ、珍しい。雨でも降るんじゃないか。そう散々なことを言いたいだけ言った後目上の傷を見て眉間に皺を寄せる。そんな情景が容易に想像でき、怒られに行くようなものだと思い至った。そしてこんな状況の中そんな呑気なことに考えを回すなんて、ますます俺は可笑しくなってひとつ笑いを零した。さあ五分もしたら班員達をその気にさせて進まなければ。この動きにくい任務をさっさと終わらせてしまおう。

20110803 



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