フラッシュバック




※転生ネタです



シャク、シャク。
不規則に畝ったグリーンの野菜がブスリと銀のフォークに突き刺され、ひょいひょいと彼女の小さな口に運ばれる。ぱくり、と口を閉じて噛めば瑞々しい音が耳に届き、まるで「どうだ、新鮮だろう」と野菜が主張をしているようだ。
こうして2人、食事を共にするのはこれで何度目なのだろう。物心ついた頃にはもう近くにいたのでそんなこと回数で数えるなど不可能なのだが、言い方を変えれば、そう、男女として付き合いを始めてからだとすれば何とか数えられるくらいなのかもしれない。

「何、見てくんの」
「いや、良く食べるなと」
「何よ、野菜は基本でしょ?あんたこそ何よ、ダイエット中の女子高生じゃあるまいし、もっと食べるべき」

別に批判したつもりはないのだが。どうやら嫌味にでも聞こえたらしい。ブーイングをしてくる目の前のお団子頭にこういう会話のやり取りで勝てた試しがないので大人しく止めていた手を動かし、目の前に盛られた野菜の山にフォークをズブリと入れる。フォークを刺したところから水がじんわりと出てくる野菜。これもフレッシュな食材を使うと評判の店だからなのだろうか。

「どっちかっていうと和食派だけど、たまにはこういうオシャレな朝ご飯も良いよね」

事の発端は案の定、目の前の人物の突飛な提案からだ。
休みだというのに朝から叩き起こされ、何だと眠気眼で尋ねると「朝食を食べに行こう」これだ。普段は面倒見が良く人と協調することが得意な彼女だが俺に対して、そしてこういう時は言い出したら聞かない。大人しく無駄な抵抗をせず出掛ける準備に取り掛かった俺を誰か褒めてくれ、なんてことを思いつつスマホを手慣れた手つきでスワイプしながら俺の手を引く彼女に連れられ、やってきたのが家から15分程歩いたカフェ。こんなところあったのか、と呟けば最近新装オープンしたらしい。どこか外国の洒落たビーチにある店というモチーフのカフェで窓側の陽当たりの良い席に通された。メニューを渡されるも俺にはとてもじゃないが聞きなれない言葉ばかりがカタカナで陳列されていて選べないので、この言い出しっぺに一任すればサラダと焼いたベーコンがサイドに乗った謎の卵料理にスープとパンが出てきた。サラダから口をつけていくが、まあ、割と美味い。

「ねえ、ネジのひとくち頂戴」
「好きなだけ」
「ラッキー」

最初からそのつもりだったんだろうと言えば、バレたかー、などと上機嫌に俺の皿にフォークを運び、器用に溶け出した卵とベーコンを攫っていった。その表情はニッコニッコと大変幸せそうだ。…本当に美味そうに食べるな。そんなことを考えつつ自分の口にも料理を運ぶ。卵がパンにじんわりと沁みていくのを口内に感じていると、ふと、彼女がまた突拍子もなくこんなことを言い出した。

「昔からね、よく夢を見るの」

…彼女が突拍子のない話題をいきなりするのはいつものことだが、今回はどこか、ピタリとフォークとナイフを持ったまま食事の手を止め、目の前の卵料理に、じっと視線を落としながら呟くように言うものだから何となく真面目に聞き返す。

「夢?」
「そう。…これ、はじめて言う話だけど、本当、よく見るんだよね。小さい頃から」
「どんな夢なんだ」

はじめてする話、というやつに不本意ながら興味を覚え、更に問い掛ける。すると手元のフォーク、ナイフを皿に置くとそのままフレッシュジュースをストローでひとくち喉に通した彼女は、今度は楽しそうに、ニヤリと笑って答える。

「私達が忍者してる夢」

…たいそうな前振りをするのでどんな内容なのかと思えば。思わず目を細め訝しげな顔で食事の手を止めればカラカラとこれまた楽しそうに笑い出す。

「その話、続きを聞いても時間の損にはならない内容か?」
「勿論。最高に面白いんだから」
「じゃあ続けてくれ」
「えっとね、まず忍者って言っても服は割と派手でね」
「派手な忍者ってどうなんだ。致命的じゃないか」
「ね。それで私は武器を沢山使って戦うの」
「忍者だからそうだろうな」
「でもあんたは名門の御家柄で、お家芸みたいな得意技があって武器はあんまり使わないで戦うの」

お家芸…何だかしょうもない感じがするがどうやら彼女は真面目らしい。
…実際の俺はというと名門の家系でも何でもない。平凡なお家柄、平凡な人生、経歴。もしや何だ、嫌味か何かか?と茶化してやろうかと思ったがその夢の話をする彼女の表情があまりにも楽しそうで俺は横槍をやめる。

「私達、一緒に色んなところに行って戦うの。鮮明な夢じゃないからしっかりは覚えてないんだけど、森の中で野宿したり、鮫みたいな顔の忍者と戦ったり」
「まるでファンタジーだな」
「小さい頃から良く見るの。不思議でしょ。しかも私達、変な名前で呼び合ってるの。忘れちゃったけどその時代の名前」

どこか遠くの思い出でも語るようにキラキラと目を輝かせながら朝の日差しを受けて語る。そしてその目を俺に真っ直ぐ向けてきたかと思うと、これが本題だと言わんばかりにこう口にする。

「今朝もその夢、見たんだ。内容は詳しく覚えてなくて朧げだけど。それでね、今日だけじゃないんだけど、その夢を見た後は毎回、あんたの顔を見ると何でだか…」
「?」

カラン、と溶けた氷が汗をかいたグラスの中で上品な声をあげた。

「幸せだって漠然と思ったりする」

そう口にした表情は先程までの楽しそうなものとは違い、どこか慈愛に満ちたような、安心しているような、そう、まさに幸せに満ちたような表情で、俺は話の趣旨がよく見えないまま一瞬何も言えなくなる。その表情があまりにも美しいものだったからだ。

「…忍者の俺は名門の家だそうだが、現実の、当の俺は残念ながら平凡だぞ」
「うん、そうね」
「それでお前は幸せなのか?」
「ふふ、最高に幸せ」

何でかはいつも分からないんだけどねー。
ニッコニッコと笑顔を絶やさず、またフォークを手に料理をつつく彼女。…まあ、そうか。目の前のこの人物が、少なくとも自分の人生を尽くして共に幸せになりたいと思う相手であるこの人物が幸せだと言うのだから今生の俺はそれで良いのだろう。彼女がいつか言っていた。「幸せにして欲しいっていう考えが嫌いなのよね。相手に幸せにして貰うばっかりじゃ物足りないでしょう?イーブンなんだから。私だってその相手を幸せにしてやりたいわ」任せなさいよ。そう言って告白というやつをした俺に笑顔で応えたこの人物は、もしかしたら強ち前世は忍者か何かだったのかもしれない。そしてその違う世界の俺達も今現在の俺達のように二人、共に過ごしてきたのだというのなら、それは今の自分にとっても、割と幸せなことなのかもしれない。

「ここのお店、美味しかったら今度は、おかっぱ君も連れて来なくちゃね」

ああ、そうだな。
これまた付き合いの長いおかっぱ頭の友人を頭の中で思い浮かべつつ、目を閉じてそう返事をした俺は再び目の前の料理をじっくり味わうことにした。今はこの時間にじっくり浸らせて貰うことにしてしまおう。

20170412


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