理解者




「つっかれた…」

頼まれると調子に乗ってしまうタイプだからか器用でもないくせにあれこれと全部やろうとしてしまうのが自分でも自覚している己の悪い癖だ。かといってあまりグチグチと苦労話を語るのは趣味ではないし、人に甘えたり頼ったりするのはもっと苦手だ。こうやって甘えベタな人間は知らず知らずの間に世間一般が言うストレスといったものを蓄積させていきいつか爆発もしくは決壊してしまうのだろう。まあ私の場合、息の抜き方を知っているだけまだマシなのだろうけど。
今日も一日任務で疲れ果ててひとり、くたびれた格好で夕暮れの道を歩く。ああ、銭湯にでも行きたいなあ。しかしこういう日に限って一緒に行く相手はいないものだ。確かネジは何か用事で日向の家に行くとか言ってたっけ。
…お腹がすいた。誰か誘って美味しいものでも食べたいと思う反面、外食なんて到底行く気力もない。ここのところ任務続きで寝不足が続いていたし明日が休みで本当に良かった。忙しいということは綱手様や里が忍として私を必要としてくれているという証だから凄く嬉しいことなんだけどでもやっぱり疲れる時はくのいちだって疲れるものだよね。

「…」

もう適当にお惣菜でも買ってお家で食べよう。そう思い街に向って足を進めているとき。なんとなしにふと目をやった道端にキラリと光る何かを発見した。?あれは何だろう。
何だか気になりそれに近付いてみるとそれは綺麗で細かな硝子細工の飾りが付いた髪留めだった。

「これ…」

確か以前こんなようなタイプの髪飾りをヒナタが付けていた記憶がある。オフの日だったんだろう。いつもより少しオシャレをしたヒナタが確かにこんな感じのもので髪を纏めていて可愛いねと褒めた気がする。あまり鮮明に覚えているわけではないから自信は無いけどもしヒナタのだったら今頃探しているかもしれない。
私は夕飯を買いに向っていた足を逆方向に向けて歩き始めた。



大き過ぎる日向の敷地沿いを行き、その門の前ですいませーんと声を掛けてみるがしかし誰も何も応答なしだ。呼び出しの鈴とかないわけこの家…。夕暮れ時という時間帯ともあってか近くに人の気配もない。…お客さんはみんなどうやって入っているんだろう。
そんなことを思いつつこのままだと埒があかないと門からの正面突破は諦めまた塀沿いを歩く。

「相変わらず立派な家…」

よくよく考えてみると私はこの家にほとんど訪れたことがない。こうしてひとりで訪問するなんてもっての他だし。というかネジはまだここにいるのだろうか。もしかしてもう用は済ませて一人暮らしの自宅へ帰っているかもしれない。最近は変わってきた様だがネジはあまりここにいるのが好きではなかったみたいだし。…。日向家訪問は諦めネジのアパートに行ってみようかと少し考え始めたとき、長く長く続いていた白い塀に小さな鉄格子の門が見えた。

「あ…」

ちらりとその隙間から中を覗くと何とバッチリなタイミングだろう。門の向こうに広がる庭の様な場所の縁側に腰を掛けている人影。あれは

「ネジ」

あまり大きな声ではなかったがネジはパッとこっちを見て目を丸くした。目の前の門を少し押すとギイと思い音を立てて開いたものだからそのまま敷地に足を踏み入れる。

「お邪魔しまーす」
「テンテン」
「やっほー。お疲れ」

部外者が入っちゃって平気だった?と辺りを見渡せばネジ以外の人は見受けられなかった。綺麗に整えられた庭が夕陽に照らされ気品を漂わせ美しく輝いている。ここはとても静かだ。

「平気だったも何も…入ってきておいて今更だな」
「だよね」

どうかしたのか?なんて未だに座りながら私を見上げるネジ。あ、そうだ目的を忘れるところだった。

「ヒナタいる?」
「ヒナタ様?ああ、ヒナタ様なら今ヒアシ様に呼ばれているが」

ヒナタの行方を聞いた後にふと思ったがここは日向家の中でも宗家の建物なのだろうか分家なのだろうか。日向家の仕組みは正直詳しくは知らないけれどそんな疑問が生まれる。けれど「この屋敷内にはいるから直ぐに戻ると思うが」と言ったネジの言葉にきっとここは宗家なのだろうと自己解決。そもそも分家と宗家が別の敷地にいるのかどうかも知らないけれど。しかしヒナタの行方を知っているなら話は早い。きっと一緒に修行でもしていたんだろう。

「じゃあさ、ネジこれヒナタに渡しといて」
「髪留め…か?」
「うん。道に落ちてて。多分ヒナタのだと思うんだけど違ったらごめん」

キラキラと可愛らしく光る髪留めをネジに手渡す。分かった。わざわざ悪かったなというネジの言葉を聞き首を横に振る。さて、目的も達成したし本当に任務終了だ。ネジも思ったより穏やかで落ち着いた表情をしているしここがさほど嫌いな場所ではなくなったみたい。…良かった。

「テンテン」

用事も済んだしさて、帰ろうかと思ったとき。ネジが静かに私の名前を呼んだ。何?と返事をするとじっと見つめられる。?何かついてる?なんて聞こうとするとネジが漸く口を開いた。

「何か、あったのか?」
「え?」

いや、髪留めを届けに来ただけだけど…と小首を傾げながら言うと、そうではなく。と返された。そうではなく、何だ?意味が分からないと更に首を傾げる私にネジはふと軽く息を吐き相変わらずの無表情のまま言葉を続ける。

「まあいい。無理はするなよ」

ネジのその一言でピンときた。
ああきっとネジにはお見通しなんだ。疲れてるのも誰かにきづいてほしかったのも。少し情けないけどでもやはり嬉しい気持ちが大きい。言葉にするのが苦手な私でも気付いてくれる人がいる。それだけで充分。それにこれってきっと凄く幸せなことだ。

「私、ネジのこと好きだなあ」

思ったことを馬鹿正直に口にするとネジが面食らった顔をするものだからそれがまたおかしくて笑う。うん。私はもう大丈夫だ。

「オッケーオッケー。うん。もう元気!」
「そ、そうか…」
「じゃあヒナタによろしく!私帰るね!」

じゃあね!と手を振り門を潜る。後ろには相変わらず座ったままポカンと見送るネジが。…ありがと、ネジ。



「お待たせしましたネジ兄さん」

すいません話が長引いてしまって、と修行相手をしていたヒナタ様が戻ってきた。ヒアシ様との話も終わったらしい。ふとヒナタ様が俺の手元に視線を向ける。

「誰か来ていたんですか?」
「ああ…テンテンが」

これ道に落ちていたそうです。とテンテンから受け取った髪留めを手渡すと少し考えた後、あっと声を漏らした。どうやら覚えがあるらしい。

「どこを探してもなかったのでもう諦めていたんですが…テンテンさんが届けてくれたんですか」
「ええ。偶然見付けた様で」

一緒に道を歩いていても俺が目につかない様なものなんかをあいつは見付ける。たまに俺なんかより視力がいいんじゃないかなんて思うこともあるが本人から言わせてみるとそれは別の視力らしい。新しいものや楽しいものを発見する能力なのかもしれないと今更ながらに思う。顔を見た瞬間に疲れやら、そういったものが手に取るように分かった。また無理でもしているのだろうがどうやら今のところ大丈夫らしい。自分から頼るのが苦手で変なところが不器用な性格だ。だからこそこちらから手を差し伸べてそれでも大丈夫だとあいつが言うのなら見守ってやればいい。反対に差し伸べた手をあいつが取ったとき、そのときには支えてやればいいのだ。不器用はお互い様だが。

「今度何かお礼しなくちゃ…」
「…きっとそういうのは全く考えてないと思いますが」

声を掛けてやれば喜ぶと思います。そう付け加えれば一瞬目を丸くしたヒナタ様はそのまますぐにふと笑った。

「そうですね」
「ええ」

そういつ奴なんです。
そう言って前の庭を見つめるとヒナタ様はそれ以上何も言わなかった。

20130423



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