忍法狸寝入りの術




任務帰り。一緒だった上忍に誘われ少しだけ飲んだ帰り道。ひんやり冷たく吹き抜ける夜風が頬を撫でていく。ひと気のない夜の里。ふと上を見上げれば漆黒の中に星が瞬いている。明日はきっと晴れだ。
アルコールが回っているのかそれとも明日が休みだからか家に帰る足取りはやたら軽い。

「ただいまぁ…」

鍵を開けて家に入るとやはりしんと静まり返っていて。この先の寝室で寝ているであろう人物を起こさないようなるべく静かに移動し部屋着とタオルを持って湯浴びをする。今日は特に負傷していないと勝手に思っていたがどうやら知らぬ間に擦り傷がついていたらしい。ピリッと静電気のような痛みが走った二の腕を見れば案の定薄っすらと薄ピンクの切り口があった。

「草地歩いたからかな」

移動中に通った背の高い草地を脳裏に浮かべながら紙紐を解き焦げ茶の長い髪を蛇口から降り注ぐ湯に靡かせた。温かい湯が脳天から爪先までかかるだけで疲れが半分抜けたように感じる。早く残り半分の疲れも払拭してしまわなければ。



部屋着に袖を通して髪を乾かすと時計は既に短い針が二の字を指していた。早く寝ないと明日を有意義に過ごせなくなってしまう。規則正しい呼吸をしてその瞳を伏せ横を向いて寝ている人物のいるベッドへ静かに足を向ける。そしてその掛かっている掛け布団をゆっくりと上げ自分もそこへ入った。場所を開けておいてくれたのか何なのか。ちょうど横になれた。じっとその寝顔を見る。長く綺麗な睫にすっと通った鼻。凹凸のない白く透き通った肌がたまにこの世のものとは思えないくらい美しいから困ってしまう。

「ネジ」

なんとなく小さな声で呼び掛けてみる。前までは少しでも物音を立てると直ぐに起きてしまうことが多かったネジも今ではこの部屋でぐっすりと深く眠れるようになっているようだ。安心しているようで嬉しい。
…今なら寝てるし、少しくらい、く、くっついてみても良いだろうか。起きてる時は素直になれないしたまには甘えてみたい。い、いいよね。誰も見てないしネジも寝てるし。
大丈夫。大丈夫…と恐る恐るモゾモゾ身体を動かしてネジの胸より少し上、鎖骨のあたりに頭をぴたりとくっつけ起こさないようにその服を掴んでみる。なんだか抱き締められているみたいだ。妙に安心する。このまま寝てしまおうと、すっと目を閉じた。ああこれならぐっすり眠れそうだ。

「珍しいな」
「!?」

途端、頭の上から声。ビクリと肩が跳ねる。誰の声かって、ひとりしかいない。

「お、起きてたんだ…ネジ」
「まあな」
「いつから…」
「布団に入ってきたとき」
「…狸寝入りの術ってわけ?」

なんとなくバツが悪くて顔が上げられないのでネジの胸に頭をくっつけたままくぐもった声で話す。羞恥心との戦いである。まさか起きてたなんて。そんなベタな。もういい。こうなったらヤケだ。開き直ってやる。

「く、くっついたら…」
「?」
「私がくっついたら、悪いわけ?」
「いや」
「じゃあ良いでしょ」

ああ。と笑いを含んだ声がしてやたら負けた気分だ。

「…こんな格好悪いとこ、リーはおろか他の人に見せられないな」
「いや、見せなくて良い…」

ぽん、と私の肩を抱くように腕を乗せてきてその手で解けてシーツに広がった私の髪を梳く。ああー、残り半分の疲れ完璧に取れちゃった。すっごい悔しいけど。

「…私って結構単純かも」
「今更か?」
「殴るわよ」
「それは遠慮しておく」

ぎゅっとそのまま背中に腕を回されて見事にその腕の中に収まる。これじゃ寝づらいよ。なんて苦情を言うはずもなく私はそのまま眠りにつくことにした。明日は少し早起きしてお昼に何か美味しいものでも作ろう。きっと良い天気だから洗濯もしてお風呂掃除もして。何でもない休日だけどきっと良い日になる。

「ネジ、おやすみ」
「ああ」

おやすみ。良い夢を。

20140320

「テンテン」
「なに?」
「酒臭い」
「うっ…」



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