甘くとろける


 チョコレートにクッキー、キャンディー。甘い甘いお菓子たち。今日はハロウィン! 誰がなんと言おうと最高の日!

「おかえり結依くん! 今日は何の日か知ってるかな?」
「ただいま。ちょっとテンションがうるさい」
「えええなんで!」

 仕事から帰ってきた結依は多少疲れているようだけど、今日の私はへこたれない。なんたってハロウィン、もらえる人からもらってお菓子パーティーするんだから!

「ということで! 今日はハロウィンなんですけども!」
「ねえ誰に話してるの、馬鹿でかい声だけど」
「仕様です!」

 呆れたように一瞥してリビングへ。その後を追いかけながら熱弁を振るう。

「それでは本日最後のエモ、いやお客様に向けて、」
「いまエモノって言いかけたね」
「いつものやつ、いってみたいと思います!」
「ねえほんとに誰に話してるの?」

 相変わらず全然こっちは見ないけど。必ず反応してくれるから、本当にいいツンデレだと思う。うちのは美形だし。

「それではお待ちかね! 結依くん!」
「なに、風呂入りたいんだけど」
「トリック・オア・トリートォォオォオオォォオォ!!!」
「うるさ」

 嫌そうに顔を歪める。その顔さえめちゃくちゃきれいだ。理不尽なほど。
 そしてなんとなく表情がゆるんだ。今日が何の日か、やっとわかったんだろう。

「さあさあさあ! お菓子を出したまえ!」
「ないけど」
「はっ?」
「ない」

 きっぱり。
 時が止まる。一瞬。私のだけ。結依はお風呂の準備を進めていたが、逃がさないからな!

「私がいちばん楽しみにしてるイベントなのに!」
「それ、誕生日のときも言ってたから説得力皆無」
「どっちもいちばんだ! いやそんなことはどうでもいい!」

 こうなれば最終手段だ。
 寝室へ駆け戻り、目的のものを持ってすぐ帰る。顔にいなくなってよかったと書いてあったが、戻ると面倒くさいに書き換わった。失礼では?

「じゃあ仕方ない。悪戯してやる!」
「なにするの」
「これをつけてもらう!」

 後ろ手に隠していたそれを堂々と見せつける。いつかメイド喫茶ごっこしたときに使った猫耳カチューシャだ。

「ついでに写真も撮らせてもらいます」
「……嫌だ」
「嫌なことじゃないと悪戯にならないでしょ」

 ふっふん。それもこれもお菓子を用意していないのが悪いんだ。
 まあでもこれだけきれいな顔してれば猫耳もめっちゃ似合うんじゃ? やっぱり美形は目の保養になるな!
 ということで、形の良い頭めがけて両手(猫耳カチューシャ付き)を振り上げると、冷たい指につかまれた。見上げると笑顔。笑顔? まずくない?

「要するに、甘いものがあればいいんだよね?」
「んん、まあそうだけど、なんでつかむ必要が?」

 質問には答えてくれず。なぜか唇が奪われた。
 どういうことなの。
 混乱している私をまったく気にすることなく、キスがどんどん深くなる。酸素が足りない。頭がぼーっとしてきた。

「甘いもの、まだいる?」

 唇を離してすぐ、しれっと聞いてくるのが憎たらしい。まだ呼吸が整わず、睨んで抗議してみるもののどこ吹く風だ。

「……もういい」
「それはよかった。じゃ、風呂入ってくるけど、一緒に入る?」
「入るか!」

 せっかくのハロウィンなのに。せっかくのお菓子パーティーなのに!
 なんだかトラウマになりそうだし、来年から家ではやめよう……。



―――
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