30 days


 一人で暮らすということ。楽な部分もあるが、しんどい部分もある。

「疲れたな」

 扉を開けても電気は点いていないし、作り置きしていた食材も昨日食べ切った。浴槽に浸かったのはいつだっただろう。
 仕事は好きだ。自分に合っているとも思う。嫌なことは重なるものだけど、ずっとこれが続くわけではないこともわかっている。しんどいけれど、何かつくって食べて、シャワーを浴びて寝なければいけないことも。
 ベッドにかばんを投げて腰かける。はああ、と長く息を吐いたときスマホが震えた。

「もしもし?」
「もしもし、帰ってる?」
「いま帰ったとこ」

 着信は年下の恋人から。後ろの喧騒から彼はまだ外にいることが知れた。

「そっか。遅かったんやね、お疲れ」
「ん、ありがと。かずくんはまだ外?」
「バイト帰り」

 目を瞑ると、本当に隣にいるような気がする。

「空、疲れてんねんなあ」

 彼はとても優しいし、わたしも大事にしてもらっていると思う。けれど決して人に甘いタイプではない。自分自身にも厳しいほうだ。なのにその短い言葉から、本当に労わられていることが知れて目頭が熱くなる。

「……わかる?」
「わかるよそりゃ。元気な振りせんでもええのに」
「そんなつもりじゃないんだけど」
「癖みたいなもんやもんな。お疲れさま」

 すべてを説明しなくていい相手がいるというのはこんなにも楽だ。際限なく寄り掛かってしまいそうな自分に気づく。

「ありがと。がんばれそう」
「がんばりすぎんといてよ」

 冗談のようでこれは真剣だ。真顔で諭す顔が見えるようで、笑いが漏れた。彼は甘い。わたしには、格別な甘さだ。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -