30 days


 最初に出会ったとき彼女はまだセーラー服を着ていた。物怖じすることのない真っ直ぐな視線に惹かれ、彼女が成人した年に晴れて恋人同士に。それから二年が経った。
 彼女はまだ二十二歳。特に何かを焦る年齢ではない。自分は二十八。だが、自分もまったく世間の風習を気にしない。
 これ以上の発展は必要ないかと思っていたのだが、先日ついにプロポーズをした。出先で、弾みも少しあったが、彼女と一緒にいる理由を上乗せできるのなら願ったり叶ったりだ。

「それでね、錦さん。呼び方が変わるんですって。かわいいですよね」

 最近恋人ができたらしい彼女の友人の話を聞くにつれ、一つ疑問が出てきた。

「なんだか初々しくて素敵だなあって思っちゃって」

 呼び方という点では付き合う前と変わらない。意識したことはなかったが、この様子だとこれからも変わることはないだろう。もうじき苗字も一緒になるというのに。

「ところで沙紀さん」
「はい」
「私のことも名前で呼んでもらえませんか」
「え?」

 一音零したきり固まってしまう。本当に驚いたときの癖だ。

「結婚するのなら、呼び方も変えたほうがいいと思いませんか」
「それもそうです、ね」

 あわあわと視線があちこちに飛んだが、ぎゅっと目を瞑って、言葉を放つと同時に開けた。

「……うーん、慣れるまで時間がかかるかも」
「錦さんが言ったのに!」
「呼び方戻ってますよ。がんばってくださいね」
「ずるいー!」

 素直でかわいらしい彼女。この笑顔を絶対に離さないと誓った。




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