30 days


 錦利一さん。私の旦那さん。
 下ろすと肩あたりまである、つやのあるきれいな黒髪。いつもは首に後ろでまとめていて、いまもそう。洗い物をしてくれている彼に窓から陽が差し込んで、黒い髪が柔らかく光を帯びる。白い横顔にあたたかな影が差す。

「利一さんって」
「はい?」
「とてもきれいですよね」

 利一さんは驚いたみたいで、ゆっくり首を傾げた。

「そうですかねえ、私は沙紀さんのほうがきれいだと思いますけど」
「そんなことを言うのは利一さんだけですよ」

 事実、利一さんはきれいだ。顔のつくりもとても整っていると思う。芸能人みたいな美しさではないし、特別美形というわけでもないけど、一つ一つのパーツというのか、誰かが丁寧につくったような印象。
 私がいちばん好きなのは目だ。黒に見えるけれど、場所や角度によって茶色や青、緑が混じる。優しい色。不思議な色。

「沙紀さん、近いです」
「え、わっ、ごめんなさい!」

 その色に吸い込まれるようにして見つめていたらしい。しかもどんどん近づいていたらしい。無言で。真顔で。いやどんな不審者!

「ふふ、私も沙紀さんの目を見ていたんですよ。真っ黒ではないんですね、少し浅い黒」
「そうなんですか? 自分の目ってあんまり見ないから」
「じっくり見てみると発見もあるものですねえ」

 ころころと楽しそうに笑って、そんな表情をすると途端にとっつきやすくなる。

「沙紀さんの目、とてもきれいで好きですよ」
「わ、私も好きです!」

 ふわ、と目が細められる。そんな優しい顔、されちゃうと、ときめいちゃう!




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