30 days


「今日は少し飲みませんか」

 いいワインが手に入ったのだと、利一さんが嬉しそうに誘ってくれた。お酒は強くないけど、少しなら楽しくなる。

「チーズもありますよ」
「わあい! ありがとうございます!」

 ふたりで買ったグラスとお皿にそれぞれワインとチーズを。暮らしが色づいていく。

「おいしいですね!」
「おいしいですねえ」

 細い指先がチーズを摘む。利一さんはお酒が強い。どんな種類でも飲めるし、おいしいらしい。

「利一さんって、あまり酔っぱらったりしないですよね」
「そうですか? けっこう酔ってますよ」

 涼しげな顔。説得力は全然ない。
 テレビでは映像がうるさい気がして、お気に入りの音楽を流している。ゆるやかな洋楽。歌詞はまったくわからないけれど、メロディーが好き。

「この曲、沙紀さん好きですよね」
「はい! なんか、外国のきれいなカップルが踊ってそうじゃないですか」

 言うと、ふっと笑われる。ちょっとメルヘンすぎたかな。
 と思った瞬間、利一さんが立ち上がる。まだ飲み物も残っているのに。

「じゃ、踊ってみますか」
「ええっ?」
「私、きれいではないですけど。沙紀さんはきれいですし」
「さては酔ってますね」
「まあ少し」
「私、ステップなんて知りません」
「私も知りませんよ。こんなものは勢いです」

 さらりと手をとられて立ち上がらされる。こんなとき、本当に自然なものだから感心してしまう。

「誰も見てませんし。ね?」

 きゅ、と腰に回される手。お酒か恥ずかしさか、体は熱いけれど、すごく楽しくて。
 彼との暮らしはとても幸せだ。



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