30 days


 友人の披露宴に来ている。同じテーブルには大学時代の面々がいて、新菜も楽しそうにグラスを傾けていた。

「あいつが一番早いとは思わなかったなあ」
「ま、社会に出てから付き合ったらね。結婚の決断も早いでしょ」

 魚料理にナイフを入れながらそんな話をする。随分と会う頻度の下がった奴らだが、時間が空いたことを感じないのは不思議だ。

「新菜は? まだなの?」
「んー、どうだろ。ぼちぼちかな」
「なにそれ!」

 漏れ聞こえる声に耳を澄ませる。もう散々言われてきたことではあるが、男と女では感じ方も違うだろう。
 朝出るときにも思ったが、新菜の着ている深緑のドレスは本当によく似合う。化粧もいつもと違うし、髪を丁寧にセットしているのも新鮮で、まあ端的に言うなら惚れ直す。これだけ長くいてもそうだ。それならいつでも決断できそうなものだが、長くいるというのが意外な壁になるということもまた事実。

「まあでも、相変わらず美形だよねえ」

 これもまあ事実。男女問わず言われ続けていることで、今更何も感じない。新菜からも例外ではなく、やはり今も相槌を打っている。

「スーツとか着るともう二次元っていうかさ」
「んーでも、」

 あれでちょっとかわいいとこもあるんだよ。
 なんて。いやどの口が?
 思わず笑いそうになるが、さすがに盗み聞きしているとバレるのもまずい。グラスを傾けて唇を湿らせる。

「あんまり待たせんのもまずいかな」
「お」
「今日のカッコとか、かわいいしさ」
「攫われるかもーって?」
「させないけどね」

 ほんと酒入ると素直だな、とか言われたけど、別に普段から思ってるよ。



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