30 days


 彼女の肌が目に飛び込んできたので、思わず逸らした。朝の健康的な光に昨日脱ぎ散らかした服が照らされている。すやすやと寝息をたてる彼女。あと十分もすれば起きだして支度を始めるだろう。
 このわずかな時間。僕が彼女を独占できるのだ。

「ん、かずくん?」

 うっすらと開いた瞳は真っ黒だが、柔らかい。

「おはよう」
「おはよ」

 眠りを引きずってとろとろとした目で、ふわ、と彼女が笑う。

「早いね。今日なにかあるんだっけ?」
「何もない。大学は三限から」
「じゃ、朝はゆっくりできるんだね」

 起き上がって、ひとつ伸びをする。きれいな体のラインに見とれるが、彼女はさっとベッドを出ていってしまう。寝起きの良さは羨ましいほどだ。

「ごはん食べる?」
「まだいいかな。適当にするわ」
「はーい」

 トースターが動き出した音。少し遅れて、ケトルでお湯が沸く音。彼女がつくる朝。

「次は週末やね。どこ行く?」
「見たい展示があるんだけど、美術館はどう?」

 ぱたぱたと動き回りながらも、彼女の返答は途切れることがない。自分にしっかり耳を傾けてくれていることがうれしい。

「賛成」
「よかった」

 再び視界に戻ってきた彼女は、両手に紅茶を持っていた。

「仕事、がんばれそう」
「そんならよかった。昨日遅かったのに、来てよかったんかなって思ってたから」
「いいに決まってるでしょ。わたしだって、会いたかったんだから」

 触れるだけのキスをくれ、彼女は笑う。一緒に紅茶を飲むだけの時間はありそうだ。


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