30 days


 神社の中まで出店が続き、人の楽しそうな声で満たされている。つないだ手を離したら間違いなくはぐれてしまう。それほどの人出だった。

「すごい人だね」
「みんな楽しそうやね」

 並んで歩くことも難しいほどだが、空さんが微笑んでいるのはわかる。濃い紫の浴衣が彼女の白さを際立たせ、いつもより赤い唇にどきどきする。

「ね、わたしりんご飴食べたいな」

 くい、と袖をひかれて立ち止まる。小首を傾げた彼女はそれはそれはかわいかった。今日はいつもより色っぽいし。
 赤い丸は彼女によく似合った。かじってはふくふくと笑っている。

「かずくんも食べる?」
「ん、じゃあ一口」

 甘酸っぱい。一口と言ったのに、何が面白いのか何度も口元に持ってくる。そのたびにかじってやると、空さんはころころ笑う。とてもご機嫌だ。お酒を少し飲んだからかもしれない。

「空さん、今日ご機嫌やね」
「楽しいもん」
「それはよかった」
「浴衣のかずくんもかっこいいし」

 思わず立ち止まると、後ろを歩いていた空さんがぶつかった。

「いたっ」
「ごめん、でもいま、」

 こんなことで一喜一憂するのが嫌なのに、口元がにやけてしまう。彼女に向き合ったとき、左側がいきなり明るくなった。

「花火だー!」

 ぱちぱちと両手を鳴らして笑う彼女。大きな花火が夜空に現れて消えていく。幸せそうに行き交う人たちも、明るい屋台も、浴衣を着た彼女も。
 すべてが楽しくてうれしくて、幸せってこういうことかな、なんて思った。


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