30 days


「錦さん、なに頼みますか?」

 笑顔でケーキを選んでいるその顔は、きらきらと輝いている。

「沙紀さんは決まったんですか?」
「モンブランとパフェで迷ってて……」

 今度は真剣な表情をする。ああ、本当に。

「それなら、私と半分ずつにしましょう」
「え、でも悪いですよ!」
「私は何でも構いませんし、沙紀さんがうれしいほうがうれしいです」

 と言ってから、店員を呼んでケーキとパフェをオーダーした。
 彼女はいいのかな、というように私と店員を交互に見ていたが、楽しみですねと言うと、ぱっと顔を輝かせた。

「アイスとか果物とか、コーンフレークとかいろいろ入ってて、パフェってお得ですよね!」
「言われてみればそうですねえ」

 一人なら食べることのないものだが、彼女が楽しそうなのでそれでいい。
 やってきたパフェに歓声を上げ、彼女がスプーンを手に取った。上に乗っているアイスクリームをすくい、小さな口に入れた。途端、顔 とろける。

「おいしい!」

 甘いものを食べているときの彼女は本当に幸せそうだ。笑顔を惜しむことなく向けてくれる。

「錦さんも!」

 スプーンの上に乗ったアイスクリーム。このまま食べるのは気恥ずかしい気もしたが、彼女はきっとそこまで考えていない。久しぶりに食べた優しい甘みを味わっていると、目の前の彼女が静かになってしまったことに気づく。

「どうしました?」
「あの、これ、」

 ぱくぱくと口を動かしている。耳を寄せてやると、小さな声が聞こえた。

「間接キス、ですよね?」

 その赤い顔。いつまで経っても初々しい彼女に、たまらない気持ちになった。



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