30 days
もうすぐ錦さんの誕生日。絶対にプレゼントしたいものがあるので私、初めてこういったアルバイトを体験しています。
「風船ちょうだーい!」
太陽のような笑顔で私に向かって手を伸ばしてくる男の子。かがんでひとつ風船を渡すと、「ありがとう!」と大きな声でお礼を言ってくれる。
どういたしまして、と言えないので、そっと頭を撫でてあげた。
暑くて重くてしんどいけど、なかなか。やりがいがあるかもしれない。公園で行っているイベントで子どもを引き寄せる役らしい。とにかく無邪気な子どもに癒されてしまう。
男の子を見送って、周りへ手を振る。どうぞ来てください、と見えないのに笑顔も浮かべながら。と。
「うおっ」
ものすごく見覚えがある人がいた。公園の噴水に腰かけて、こちらを見ている。え、私ちゃんときぐるみ着てるよね?
一旦控室に戻ろうかな、と思ったけど、タイミング悪く女の子がやってきた。ああ、やっぱりかわいいなあ。風船を渡して、噴水のほうを見るともう姿はなかった。帰ったのかな?
「あなた、沙紀さんでしょう」
聞き慣れた声がすぐ横から聞こえた。驚いて振り向くと、錦さんが微笑んでいた。ぶんぶんと頭を振るが、ますます笑われるばかり。
「こんなところで何をしているんですか」
「なにも」
「きぐるみを着ていますね」
「……そうですね」
もう誤魔化せない。困っていると頭に手が乗った。
「暑いですから、水分補給はしっかりしてくださいね。今日は何か食べやすいもの作っておきます」
うう。帰ったら、もう本当のこと言おう……。