二十九 元治元年、八月。 長州の討ち入り後、新選組は新しい隊士を募集していた。 江戸に藤堂がむかって一月、千里は市中のある屋敷にいた。 「鴉たちの報告では薩摩に二人おるようだな。それと、お前の探している雪村綱道という男のことだが」 すっ、と差し出された紙を読みながらやはり、と千里は眉を寄せた。 そこにはある薬とその作用についてかかれていた。 ため息を漏らし、千里は紙を灯りに燃やす。 灰になったそれを眺めながら口を開かない様を気にしたのか暗闇で動く気配があった。 「敵も見つからないしこんなのもでてくるし、本当疲れるばかりだねぇ」 大きなため息と同時に千里は頭を抱えた。 京に来て時間ばかりが過ぎていく。 新選組と行動を共にしがてら探してら当たるがどこにいるのか検討もつかない。 焦燥ばかりが募る。 だめだとわかっていても、焦りが思考を絡ませる。 「はぁ…仕方ないねぇ。のんびり探すほかないのか」 「千里」 「…なんだい?」 「いましがたひとつ知らせがきた」 新しく差し出された紙に書かれているのはおそらく江戸で入るのが決まったのであろう新しい隊士の情報であった。 仲良くできそうにないな、と千里は思う。 いや、千里だけではないだろう。 問題も起きそうだ、と思う。 はじめから一緒にいたわけではないが、いまは新選組にお世話になる身。下手なことはできないし、するつもりもない。 「あぁ、甘味食べてこよう」 悩むよりは動いたほうが楽そうである。 千里は立ち上がると市中へとでていった。 |