千華の揺籠



貴方を置いていく僕を、貴方を裏切る僕を……どうか許して欲しい。



遊びに来ていた猫が死んだ。

僕の家の近くの草むらで。
暫く来ない日が続き、飼い猫にでもなったのだろうと思っていた猫が。
ふと、猫の死体を見たときにあの人の言葉が脳裏によぎる――猫は自分の死期を悟ると姿を消す――。
僕は急にミカナギサンの声が聞きたくなって、電話をした。
『……もしもし、闇識君どうしたの?』
何回かコールしてから優しいミカナギサンの声が聴こえる。
「………………猫が死にました」
長い沈黙の後に僕が絞り出せたのは、端的な言葉だった。
『今から行くから待ってt
「切らないで……お願いだから……切らないで……」
なんと言う情けない声が出たのだろう。
ミカナギサンは解ったと、ずっと家に着くまで電話を切らないでくれた。
「闇識君……」
「……ミカナギサン……」
僕は冷たくて堅い猫の身体を撫でながら、ミカナギサンを見上げる。
ミカナギサンには、どんな滑稽な姿で映っているだろうか。
ミカナギサンは無言で僕を抱き締めてくれる。
僕が落ち着きまでミカナギサンはずっと僕を抱き締めて、背中を擦ってくれた。
「闇識君……その子のお墓を作りに行こう」
僕は力無く頷く。
「闇識君……何処まで行くの?」
僕は黙々と歩いた。
ミカナギサンは呆れてしまったのか、もう何も喋らない。
僕は土手を登る。
「わぁ……凄いね」
後から追いついたミカナギサンがその光景をみて感嘆の声を漏らした。
そこに広がるのは一面の花畑。
様々な花が自然に芽吹き、咲き誇る場所。
「ここは綺麗だね」
「はぃ……誰も手を加えてない場所です」
僕はそっと花の中に猫の死体を置いた。
「さぁ、帰りましょう」
僕はミカナギサンの背中を押して帰りを促す。
そして、僕はその時決意した。
その決意はあまりにも残酷で、きっと恨まれてしまうだろう。憎まれるかもしれない。
でも、僕はあえてその残酷な選択をしよう。憎まれても、恨まれても。

――ねぇ、貴方もその為に帰って来なかったの?――


返事だと言わんばかりに強烈な風が、その場を駆け抜けた。


千華の揺籠

すごく切ないお話です
このあと二人はどうなってしまうのでしょう
でも、幸せになってほしいなぁ


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