裏町式お惚け談義



平日の昼下がり、アップルパイの焼けた香りが漂う居間。
今日も濃密なチョコレートの香りが、小さなお茶会の始まりを知らせる。



裏町式お惚け談義


「闇識、一切れ取って置いてくれ」
居間に入ってくるなり、春姫は闇識サンに言った。一体何様だろうか。
「響サンに……?」
「あぁ、彼奴闇識のおやつ好きみたいだからさ」
照れ臭そうに春姫は頬を掻く。
闇識サンは微かに頬を弛めた。
「じゃぁ、俺も一切れ取って置いてよ」
「ワタシもだ」
罪識やニャンコまでもが春姫に便乗した。
闇識サンは丁寧に切り分けると小さな箱にケーキを入れていく。
僕は闇識サン以外のカップに紅茶を注ぎ、闇識サンのカップには濃い目のホットチョコレートを注いだ。
「闇識はミカナギの所に持って行かないのか?」
罪識はサクサクのパイをフォークで切りながら闇識サンを見る。
「急に行っても迷惑になるから」
闇識サンは困った様に曖昧な笑みを浮かべた。
何時も強気で勝ち気な闇識サンには珍しく、僕は首を傾げる。
それに先程から会話に出るのは知らない人の名前ばかり。
「ったく、闇識は"恋人"に気を遣いすぎなんだよ」
僕は恋人と言う言葉にショックを受けた。闇識サンに恋人……。
「だって……罪識達みたいに死ねとか言い合いたくないもん」
「いや、あれは愛情表現だし」
罪識は慌てて弁解をしている。そして話題を変えるために、それにしてもと繋げた。
「倖も響も趣味悪いよな」
「「どういう意味だ」」
罪識の言葉に春姫とニャンコが怒気を孕んだ声で凄む。
「春姫もニャンコも意地悪で短気じゃん」
「ワタシのそういうところが好きだと言うているからな、貴様一人がどう思おうが構わない」
ニャンコは自信有り気にニヤリと口角を吊り上げた。
「俺は響には出来るだけ優しくしてるから大丈夫……」
春姫は普段からは想像もつかない程に優しく微笑む。
「へぇ……意外だな……貴様は虐めぬいているかと思うたわ」
「アンタじゃあるまいし……あんな可愛い奴を見て虐められる訳がない」
「フン、虐めて嫌がるふりをするときの顔も絶品だがな」
ただのお茶会が惚け話に埋め尽くされてしまった。
僕は食べ終わった皿を手に席を立つ。
きっと彼らの恋人自慢はまだまだ続くだろうから。

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