お狐様が通る



生まれたばかりの神様が出会ったのは、優しくて美しい銀色を纏う妖怪でした。







ワタシは荒れ果てた神社に生まれた。
信仰のある場所に神は生まれる。
しかし、こんな場所にすがる者共がいるのだろうか…?
待てども待てども、人は来ない。
ワタシは神社を飛び出して、散歩をしてみることにした。
青い稲の匂いがする、田んぼの畦道を進む。
少し歩けば小さな祠を見つけた。
近付けば、幾分古汚く小さな祠なのかとはっきり判る。
「誰か居るのか?」
ワタシはそっと声をかけた。
「……はぃ……」
蚊の鳴くような小さな声がした。
誰かいる!
ワタシは嬉しさに身震いした。
「ソナタ、名を何と申す?」
「私は……倖と申します」
「倖とな、良い名じゃな」
私は唯一無二の話し相手を手にいれた。その日から毎日ワタシは飽きもせず、その祠に通い続けた。

「倖、今日は綺麗な青空じゃ。蛙もよぉ鳴いておる」
「えぇ、蛙の鳴き声は私にも聞こえておりますよ」

顔も見えぬ話し相手。
倖は祠から出して欲しいとは願わなかった。だから、ワタシも出してやれない。神は願われなければ、酷く無力だ。
そして幾度目かの春が過ぎ、夏が訪れた。
「のぉ、今年の夏祭りは300年に一度の豪勢なものとなるらしいぞ」
「そうなんですか……もう、そんなに経つのですね」
倖の声には悲しみが込められていた。
「倖は見たことがあるのか?」
「はぃ……300年前に一度だけ」
「そうか……なぁ、ソナタは何故このような場所に?」
聞いてはいけないと思っていた。
「……」
倖からの返事はなかった。
その日から倖はワタシと話をしなくなった。
泣いているのか、怒っているのか。ワタシには何もわからなかった。

「のぉ、倖……今日は夏祭りじゃ」
「……」
「ワタシは主と……花火が見たかった」
「ッ……」
「願ってはくれぬか?」
「……出来ません」
倖の声は震えていた。
「何故じゃ?」
「私と一緒に居る人は、不幸になってしまうから……貴方は優しい人だから……不幸にはしたくないのです」
ワタシはやっと気付いた。
倖はワタシを人の子だと思い、ワタシの為に外には出なかったのだ。
「倖よ、よく聞け。我が名は……」
×××じゃ。
「ワタシは不幸にはならぬぞ!」
それは、誓い。
「倖……願っておくれ」
「ッ……私も……貴方と花火が見たいです!」
ワタシは今までに感じたことの無い力を感じ、祠を縛る札に触れる。
戒めていた札は焼け落ち、中から美しい銀色が姿を現した。
「初めまして、倖」
「ッ……サンッ……」
倖は滑らかな腕を伸ばす。
ワタシはそっと抱き締めた。

二人の後ろで花火が夜空に大輪を咲かせる。

「ワタシはソナタのおかげで幸せになった、だから、次はワタシがソナタを幸せにする番だ」
倖は顔を綻ばせ、頷いた。
「はい」






お狐様が通る

デレデレしてしまいそうなほど、キュンキュンする小説をいただきましたー
ご馳走様です
とりあえず、倖がめちゃくちゃかわいい…(キュンv


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