変わらないもの、変わりゆくもの

アリアは一人目を覚ました。ベッドが自分以外の体温でぬくい。隣に目を向ければやはりというか、街で拾った一匹の大型犬が一緒に寝ていた。
呆れたというかなんというか。もはやすでに日常の一部のためアリアは気にしない。というよりも、考えることを辞めた。
ベッドを抜け出せば足元から寒さが這いあがる。カーテンを開けば窓の外は銀世界。夜の間に雪が降ったらしい。
白い息を吐いてアリアは部屋を出た。キッチンに向かいながら今日は何を作らせようかと考える。
不思議な犬だった。弱っていたから広いあげ手当てをしたのはほんの気まぐれ。なのにそんな小さなことひとつをいつまでも恩に感じているのかここに居続けている。
人里離れた場所で隠居生活を営むアリアが手に入れたぬくもりはもはや手放しがたいものになっていた。

「起きたのか、アリア」
「……なんだ、犬。起きたのならばさっさとおにぎりとやらと作れ」
「…相変わらずだな…たく。顔洗ってこい」
「む」

アリアは起きてきたらしい新餓鬼にいわれ浴室へと向かっていく。顔を洗うついでにアリアはシャワーも浴びて目を覚ましていた。うとうととしていたものの、熱いシャワーを浴びれた意識もはっきりしていた。
あたたかい、とアリアは感じていた。新餓鬼がきてからも食事が豪華になった。栄養面でも考えられている。
犬、犬と呼んでいた。名前も知っているが呼ぶ気にはなれなかった。だが、彼はどんどんアリアの中に入ってくる。ひとりさびしく生きていたが、新餓鬼を拾い、アリアの周辺はにぎやかになっている。

「アリア、飯できたぞ」
「ん、今いく」

キッチンから声をかけられアリアはうなずいてリビングへと向かった。今日も変わらず並んでいる食事は新餓鬼が生きていた和国のもの。薄味ではあるが、アリアもなかなか好みの味であった。
食卓についてアリアは手をあわせる。

「そうそう。それがいただきます、だ。命あるものの命をもらって生きてるんだからな」
「……貴様が毎度毎度そういうからやらなければならぬだろう…」
「いいか、アリア、命をもらって生きているんだ。お前もいつか死んだら何かを糧になるんだぞ」
「…そうか?それは知らん。何かの糧になるとは思えぬがな」

アリアはそう反論すると食事をとり始める。もういつもお決まりのやり取り。アリアはこのやり取りさえ、もはや日常の一部となっていた。アリアの変わるはずのない日常は少しずつ変化していく。
そしていずれ自分の気持ちさえも変わってしまうのではないだろうか、とアリアは不安になる。変わったら変わったでアリアさえもきっと何か変化してしまう。
そんなことが起こらぬよう願いを込めながらアリアは新餓鬼から顔をそらしていた。いつかいなくなる新餓鬼、そばにいてもおいて逝くことになるアリア。変わらねばいい。変わらなければいい。でも、変わってほしい。矛盾した気持ちを持ちながら、アリアは今日も生きていく。

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