お子様ランチ

「あぁ、最悪なんだよ。思い出したくもねぇ」

郁はそうつぶやいた。最悪なものなど俺にはひとかけらの恐怖も与えないと豪語する郁でさえ、さすがにこの前の出来事には頭を悩ませていた。
それは三日前。たまたま、銀の実験に行き合わせてしまったのである。

「すまないな……私のせいだ」
「…パパ、隠し子ー?」
「聖、頼むから響に変な言葉を教えないでくれ」

銀は疲れたような雰囲気で告げると腕に抱いていた小さな子供を下におろした。
彼は見慣れない景色にきょろきょろしている。誰ぇ?というような感じで響を見つめている。

「郁だ。私の実験のせいで、こうなってしまった」
「ぶはっ」

暁と聖が同時にお茶を噴出した。響はかわいいねーと告げて郁を見ている。
銀の見立てではどうやら、郁は大人の時の記憶がないようで、まっさらな子供そのものだという。
どうもとに戻すかということに頭を悩ませているとそこへ郁の恋人奏夢がやってきていた。

「郁さん、いますか」
「そうむー」

響よりも先に奏夢に抱きついたのは郁である。は?と首をかしげた奏夢であるが、銀から話を聞けばなるほどとうなずく。
小さな郁を抱き上げると顔をほころばせた。いつも自信満々で傲岸不遜といったようすのため、少々とっつきにくさもあるものの、今の彼はかなりかわいい。

「そうむ、すきー」
「俺も好きだよ、郁さん」

かわいいものの、このままなのだろうか。かわいい郁もそれなりにいいが、やはりいつもの姿のほうがいい。
奏夢は顔を曇らせた。チビ郁は奏夢を見上げて泣きそうな顔になっている。奏夢はそれに気づくとあわてて大丈夫だよと告げた。
涙を大きな目いっぱいにためている郁を見て胸が痛む。自分のせいでこんな顔をさせてしまったのなら申し訳ない。
そっとほほに唇をあてた。その瞬間。

「ぁ」「お」「戻った」

煙とともに郁は元に戻っていた。奏夢は郁に押し倒された形になっているが、それでも嬉しそうな笑みを浮かべていた。

「王子様のキスでお姫様は戻ったんだね〜」
「……てめぇら、とくに聖と暁。そこに座れ。俺が首をたたき切ってやる」

いつもながら腰に携えた刀を構え郁は低い声音で告げた。逃げた暁と聖を追いかける郁を見て奏夢はわずかな笑みを浮かべた。

「やっぱりあの郁さんが好きだ」
「奏夢、てめぇも夜覚えておけよ!」
「えぇ、俺も?!」

郁のどなり声が響いている。どうやら今日はゆっくり寝れなさそうだ、と奏夢は苦笑を浮かべていた。

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