行方知れずの恋

カランと氷が涼やかな音を立てた。
クラシックが流れる店内は客の数も少なく、自分だけ別の世界にいるように感じた。
グラスは冷え切り、しずくがテーブルに落ちて染みを作る。
ボーン、と低い音で時計が時を告げた。
氷がとけ、薄まったコーヒーをのどに流し込めばアリアは立ち上がる。
どうやら、待ち人は現れないようだった。

「ありがとうございました」

店を出て当てもなく歩き回る。
今日会う約束をしていたから新しいワンピースも買って、普段ならばしないメイクも挑戦した。
とぼとぼと歩くアリアは小さな石につまずいて倒れ込んだ。
自分がみじめでならない。

「…・先生…」

自分があまりにも哀れに思えて涙さえ浮かぶ。
そんなアリアに手が差し伸べられた。
顔をあげればそこには珍しくきちんとスーツを着た男の姿。

「悪い、アリア。遅れて…」
「新餓鬼先生……」

手につかまりたちあがると膝に赤い血がしみていた。
アリアをなでた新餓鬼はそっとハンカチで血をぬぐう。

「悪い…・・待っていて、くれたんだな」
「帰ろうと思いました…」

ばんそうこうを貼ってもらいアリアは一目を気にせず新餓鬼に抱きついた。
煙草の香りがする。

「……忘れてたわけじゃないんだ…」
「…知ってますよ」

手をつなぎ歩き出す。
本当は今日、彼に自分の気持ちを告げるつもりだった。
好きだと、愛しているのだと。
教師ではなく、本当に一人の男性として。
だが、アリアは自分の気持ちがちゃんとつかめていなかった。
好きなはずなのに、手をつないでいる今がいやで。
アリアは切ない表情を浮かべて横顔を見つめる。

「好きですよ…」

小さくつぶやいた言葉は、新餓鬼の耳にもアリア自身にも届かなかった。






(僕は何処で君が好きじゃなくなってしまったんだろう)

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