虹が出た、雨がやんだら

倖は狐の妖怪だ。それも、いわゆる大妖怪と呼ばれる九尾の狐。
そんな妖怪でも、人間を好きになることがあった。
妖怪が人に恋をする、その対価は”愛した者の不幸せ”
ゆえに倖はあまり人を好きにならなかった。
自分よりも、弱く儚く、簡単に死んでしまうがゆえに。
それなのに、今、倖は人を愛した。
外では雨が降る。外に出ることもかなわず彼らはリビングにいた。

「倖、ほっぺやわらかいね」
「悠一さん、ひっぱんないでください…」
「倖の体、柔らかい」
「順一さん編み目間違えて、って、きゃぁ」

ソファの左右を恋人二人に挟まれ倖は編み物をしていた。
が、右側に座る恋人、宇佐美順一によりその膝の上に頭を乗せることとなってしまうと少し文句を言いたそうに唇を尖らせた。
しかし、隙ありとばかりにもう一人の恋人宇佐美悠一により唇を奪われてしまう。

「も、順一さんも、悠一さんも、邪魔ばっかり…お二人のためのマフラーなんですよ?」
「それは嬉しいけど、倖は俺たちにかまってくれないだろう?」
「もうすぐ寒くなりますから、早くしないと間に合いません…」
「だーめ。せっかくの二人そろっての休みの日にこんな無粋なものは似合いません」
「ぁ」

悠一は倖の手から編み物一式を奪ってしまう。
倖は文句を言いたそうに見つめるもため息をついてから悠一の手を握った。
もう片方の手は順一の手をつかんでいる。

「仕方のない人たち…」

倖は微笑むと二人の手と指を絡める。
三人で顔を見合わせて微笑めば、外でふる雨の音がしみてくる。
雨が止んだら何処に行こうか。
三人はそんな会話をする。
ただ三人で他愛もない話しを続けて入れば、いつしか耳に雨の音は聞こえなくなった。

「倖、おじさん、ちょっと」

外を見に行った悠一が二人を呼ぶ。
順一は倖を抱き上げベランダに向かった。

「わぁ…」

空を見た倖は感激したような声をあげた。
悠一の指さす空に二つの大きな虹がかかっていた。

「二本の虹はそれぞれ、雄の虹、雌の……あれは俺たちなんだよ、倖」
「ぇ…」
「そうですね、俺と倖さんです」
「悠一、あれは俺と倖だ」

頭の上で言い合う二人を見ながら倖は微笑んだ。
自分といたら不幸せになってしまうはずの、弱い人間。
でも、彼らはそれを覆してしまった。
倖に、両手でも抱えきれないほど大きくてあったかくて、たくさんの愛をくれた。
倖はそっと背伸びをして二人の頬に一度ずつ唇を当てた。

「大好きです、悠一さん、順一さん」

不幸せなんてこの二人は蹴っ飛ばしてしまいそうだ。
倖は虹を見て思う。
不幸せという雨の中に立っていた倖を晴れの空の下に導きだしてくれたのは紛れもなく、この二人。
いまだ口論を続ける二人をなだめに入りながら倖は自分にとっての虹を眩しそうに見つめたのであった。

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