終わりは始まり



心地よい日曜の朝、体にまとわりつくシーツをけだるげに落としたときだった。
"ドサッ"

「は?」

何かが落ちたような重い音。続いて野良猫たちの威嚇する鳴き声。
気持ちいい日曜の朝が壊れた瞬間だった。

「一体何…」

暁はベッド脇の窓ガラスを明けて、庭をのぞく。
野良猫数匹が何か黒い塊にむかって毛を逆立てていた。

「にゃんこたち、五月蝿いよ」

暁の部屋は二階だが、軽々とした身のこなしで庭へと飛び降りる。
猫たちは暁を見ると一目散にかけて逃げていった。
暁は黒い塊に近づいていく。

「なにコレ…」

黒い塊はもぞもぞと動くとガラスだまの負うな目が覗き、蝙蝠のような羽がパタパタと動いていた。
体は子犬より少し大きいぐらいであり、トカゲのような体つきをしてた。

「…は?」

キューッ!と高い声をあげたそれは立ち上がろうともがく。
しかし、何処かに怪我をしているのか旨く立ち上がれない。
暁はそっと体を抱き上げた。
蛇のようなうろこが体中にあり、見た目に反し意外と重たかった。

「君って変わり者だね…何、ドラゴン?」
「キュウ?」
「あーはいはい…ペットにしたら銀とかに実験台にされそうだから怪我が治ったら逃げてね?」

くりくりとした瞳はじっと暁を見ていた。
自室に運び込み、包帯や薬を階下からくすねてくる。
黒い塊はぱたぱたと飛びながら暁に近づいてきた。

「ほら、大人しくして。手当てしてあげるから」

暁がそばに近づき、ひとなでしてからソファにむかうとふらつきながら突いてくる。
ソファに腰掛、隣に塊が降りたのを見ると傷の具合を見てやる。
後ろ足に引っ掛けたような傷があり、そっと消毒液をかけてから包帯を巻いてやる。

「治るまでははずしたらだめだよ」
「キュー…」
「君に名前をつけないとねぇ」

暁は少し重たい体を抱き上げる。
澄んだ瞳はまっすぐに暁を見ていた。

「君は…闍麒ね」
「キュッ!」

嬉しそうに羽をばたつかせ、塊―闍麒―は喜びを見せた。
暁はそれを見ると目を細めた。
ドラゴンなんてとんだ拾い物をしたが、何処か荒んだ心の中が温まるような気がした。

「キュキュキュ…」

闍麒はどこへでも暁のあとをついていく。
まるで親を慕うかのように…。
暁は時間が経つにつれて彼との別れが辛くなっていた。
だが、ここにはおいてはおけない。暁はそう心を決めた。

「闍麒、いい?」
「キュウ?」
「おまえはここにいてはいけないよ。もう、お前のいるべきところへおいき」
「キュー…」
「・・・っ行け!お前は二度と俺に会いに来るな!」
「キュッ!」

手にしていた小刀を振り回せば、闍麒は怯えたように後ずさる。
暁はそれでも闍麒を追い出さなければならなかった。
幾度も小刀を振り回すうち、闍麒は窓から外に飛び出していった。
暁はその場にへたりこむ。
短い間だったのに、闍麒が隣にいるのは当たり前になっていた。
床に突っ伏して泣く暁は、二度と彼に会えないだろうと思っていた。

「闍麒、ごめん…ごめんね」

その闍麒との記憶は暁にとって忌まわしいものとして記憶の奥底にしまわれた。
ところがその半年後。

「暁、客人だ」
「はいはい」
「暁さん!!」

階下を降りてぶつかってきた一人の少年。
あったことも見たこともないが、その澄んだ目はどこかで見たことがあった気がした。

「闍麒です。ようやく人の姿になれたから会いにきました」
「闍麒…?」

それは遠い記憶の中の名前。
まさかとは思いつつも、心のどこかでは本人だと感じていた。
聞けば暁に会うために必死になって力を溜めて人の姿になったのだという。

「そうなんだ…」
「俺、暁さんのこともっと知りたい!俺をそばにおいてください」
「いいよ」

少し変わった出会いだが、これもいいかもしれない。
暁はそう思い、少年の闍麒に笑いかけた。





終わりははじまり。

(にしても俺よりでかくない?)
(成長期ですから!)
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