熱を帯びたキミの瞳



郁はぼんやりする頭を必死に動かしていた。
気を抜けば意識は飛んでいってしまいそうなほどに体がだるい。

「まったく、あんな大雨の中を罪識さんときりあってるからですよ」

小言を言う倖の声も遠い。
郁は目を閉じた。

「・・・なぁ、郁は大丈夫か?」
「郁ー?お熱出して倖ちゃんに看病されてるよー?」

罪識は先日大雨の中をいつものように郁と切り結んでいた。
それが二人の愛の交わし方だから。
ところが今朝方になって郁はひどい熱を出したのだ。
うつってしまうから、と倖に部屋を追い出されてしまいどうしようもなくなった罪識は響の相手をしていた。

「郁が熱を出すなんて珍しいねー」
「そうなのか?」
「郁はおばかさんだから風邪は引かないんだよ」

響はぬいぐるみに夢中になりながら応えていた。
罪識は倖がいない間に郁の部屋に忍び込もうとしていた。
しかし、さすが狐。
倖は敏感に罪識の気配を感じ取り、郁の部屋に行くのを邪魔する。

「まったく、油断も隙もないんですから」

隊のオカン的な存在である倖はこれ以上風邪をひいている人間を増やしたくないらしい。
しょぼくれた罪識を見た響は裏町からニャンコを呼んできて倖の足どめをさせた。

「響、ありがとー」
「イチゴさんでいいよー」
「ちゃっかりしてやがる」

後日イチゴを持ってくることを約束し、罪識は郁の部屋に忍び込んだ。
郁は窓際のベッドで横になっている。
少し熱があるせいか、息が荒い。

「郁…」
「…あぁ、罪識か」

罪識の気配に意識が浮上した郁は瞳を罪識に向けた。
その、瞳にこもった熱に罪識はどきりとした。
なんだか、いつもの郁ではない。

「…・…うつるぞ」
「いい…」

罪識はもぞもぞと郁のベッドに入っていく。
体の体温が高いせいか、汗をかいたせいか、郁のベッドの中はこんもりと湿っている。
ぎゅっと抱きつけば諦めたのか、文句を言う元気もないのか、郁は好きにさせていた。

「俺にうつしていいから。そうしたら、郁はすぐ治るだろ」
「……さぁな」

郁は苦笑すると珍しく罪識を抱きしめた。
いつもはこんなことしないのに、と罪識はドキドキしっぱなし。

「……あぁ…ようやくこれで寝れる」

小さくつぶやいた郁はそれを最後に寝息を立て出した。
罪識は額に張り付く髪をかきあげ、そっと額に口づけをする。

「早く治せよな、馬鹿郁」

罪識は同じように目を閉じて寝息を立てる。




後日、裏町に罪識の大きなくしゃみが響いたとかなんとか。


熱を帯びたキミの瞳
<バカは風邪ひかねぇんだろ?罪識>
<うっせぇ…ズズッ>
<…早く治せよな……てめぇがいなけりゃつまらねぇ>

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