バレンタインデーキッス
「なぁ、銀…」
「……」
銀は黙ってミカナギを見た。
広いリビングには裏町を追い出され、倖にキッチンを追い出された男衆がいた。
かくいう銀もまた、追い出された組。
「……何してんの、みんなで」
「バレンタインだろう」
「暁さんがケーキ作ってくれてるんだって!」
そういって笑うのは梳識。
どこかかわいそうなものを見るかのような眼で彼を見つめるのはミカナギと銀。
「倖も大変だのぅ」
「響…怪我してなきゃいいんだが」
裏町を追い出されたニャンコと春姫はそれぞれの恋人を思う。
倖は料理下手な聖と暁を相手にしているし、そもそも料理をしたことがない響は闇識と夏林と裏町で作業中。
倖が頭を抱える様を思い浮かべたニャンコは一度キッチンに踏み入れたが、暁によってボールを投げられ退散してきた。
「……闇識くん…」
銀は黙ってそんなメンツから顔をそらした。
唯一ここにいないとあるひと組のカップルは、先ほど連絡があり、二人揃ってスイーツバイキングに行くという。
好きにしてこい、と銀は告げて電話を切った。
「お待たせしました…」
「倖!」
キッチンから出てきたのは倖。
それと暁と聖。
聖はそのままリビングを素通りし、万屋で待つ和正のもとへ。
暁は梳識に駆け寄るとはい、と皿を差し出した。
少々焦げているが、小さめのタルトがちょこんと乗っていた。
暁と梳識は別室に向かった。
倖も珍しく失敗してしまったのか、形の崩れたチョコケーキを皿に乗せてニャンコに差し出す。
「うまそうだのぅ」
ニャンコはそう言って倖の腰を抱き寄せソファに腰掛ける。
恥ずかしげな倖をしり目に銀とミカナギ、春姫は待った。
「春姫ー」
日も沈んだ頃。
響が嬉しそうに走ってきた。
腕に抱えたバッグからはがしゃがしゃと音がしている。
「あのね、あのね、お部屋でね」
走ってきたせいか、息を切らす響は夢中になって春姫に告げた。
「チョコフォンデュするの!だからお部屋いこ?」
「あ、あぁ…」
「お待たせしました、銀さん…」
「おかえり、夏林」
夏林を膝に乗せた銀は優しく笑みを浮かべた。
夏林が差し出す袋を手に笑みをこぼす。
「ありがとう…おいしくいただくとしよう…むろん、夏林もな」
そんなささやきで耳を赤くする夏林を満足そうに見つめる。
ミカナギはそばに近寄ってきた闇識を見て笑みを浮かべた。
「お疲れ様。響の相手疲れたでしょう?」
「いいえ………。つ、疲れました…だから、ミカナギさんと」
「…闇識くんが作ってくれたチョコ食べて、一緒にのんびりしようね」
ミカナギに言いたいことを先越されてしまったが、闇識は生チョコの入った箱を差し出して微笑んだ。
(郁〜このチョコタルト旨いって。食ってみろよ)
(…もういい…体がチョコになりそうだ…)
(え〜…じゃぁ、口うつしで食わせてやるからさ)
(…それならもらってやる)
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