あぁ、素晴らしき我が暴君



俺の恋人は唯我独尊、暴虐な独裁者。
でも、それでも好きになってしまったんだ。
あぁ、なんという運命か。

「郁ー、飯できた」
「…グー」

ベッドで眠る俺の恋人。
上は裸のまま、眠っている。

「郁?」

そっとそばに近寄り、そのままキスをしてみた。
そのときだった。

「んふっ?!」

郁の手が後頭部に回り、無理矢理唇が重なる。
唇を割ってざらついた舌が入ってくる。

「い、ぁ…」
「くく……いい目覚めだ」

唇が離れたと思ったら寝起きの低い声が耳を揺らす。
郁は俺を放り出して起き上がると、シャツを片手に階下に降りていった。
俺は半ば呆然としていたが、郁の呼ぶ声にあわてて階段をかけ降りた。

「お前、オムレツ以外は作れないのか」
「あぁ。不満なら食わなくていい」
「…たまには他のものを作れ」

郁はそう言って席につくと、とりあえずといった様子で手を合わせて朝食を食べ出す。
郁の言うこともわからなくない。
でも俺だって努力してるんだ。
郁に内緒で通い始めた料理教室。
最近は一人でクッキーも作れるようになってきた。

「郁、甘いものって平気か?」
「好きではないが、食える」
「そっか」

食べられるのならば作っても問題ないな。
俺は郁が出掛けたのを見計らって料理教室で学んだようにクッキーを作り出した。

「えと、オーブンの温度は120度に設定…」

メモをした作り方を見ながら俺は市松模様のクッキーをなんとか作った。
そう、これでいい。
いくつか焦げたけど、それは自分が食べて処理した。
あとは紅茶をいれる用意をして郁が帰るのを待つだけだ。

「…食べてくれるかな」

不安、だった。
あの人は素直に食べてくれないから。

「戻った」

玄関の扉が開く音がして郁が戻ってきた。
俺は転がるようにして郁を迎えに出る。

「お、おかえり!」
「あぁ」

郁は俺には目もくれずさっさとリビングへ。
俺はおそるおそるリビングをのぞきこんだ。

「……ん」

クッキーをつまみ、郁は俺を見た。
食ってもいいのか、と目が聞いてくる。
俺がうなずくと郁はクッキーを放り込み咀嚼した。

「…それなりだな。また作れよ」

命令形。
でも、俺には何よりの賛辞だ。
俺はリビングに飛び込むと二つ目のクッキーを手にする郁に抱きついた。
俺の行動にぎょっとした郁だったけど、小さく息を吐き出すと俺の好きにさせる。

「大好きだ、郁」
「あー…そうか、俺もだ」

久しぶりに見た郁の満面の笑顔。
キスをされると思い、目を閉じて顔を上に向けた。
郁の吐息が近づく。

「…下僕としてな」

予想外の言葉に固まる俺をみて楽しげに笑うと、今度こそ俺にキスをひとつ寄越し、リビングをででいった。
下僕として、と言われたのになぜだかすごくうれしい。
普通に好きと言われるよりも、だ。
意外と危険な方向に進んでいるかも、と思いつつテーブルの上のクッキーをみる。

「やっぱり好きだなぁ…郁のこと」

そうして俺は郁に再び惚れる。
性格の悪い男だとしても、俺にとっては何よりすばらしい恋人だから。

あぁ、すばらしき我が暴君
(にしても、まずいな…)
(なっ…!だったらお前が作れーッ!)


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