春に響く



響の恋人は吸血鬼と人間のハーフである春姫だ。
ハーフとはいっても、血は吸わないし、朝も普通に起きている。
違うところと言えば、人より傷の治りが早いこと、人より長生きなことぐらいだ。

「春姫ー!」
「ん、どうした、響」

響は春姫に飛び付いていく。
春姫は響を軽々と抱き上げた。
ぎゅっと抱きつかれ、甘えられれば春姫は目を細めた。

「あのね、庭の花が咲いたよ。僕がお水やりをしたの」
「お、それは偉いな。俺もみたい」
「見に行こー?おっきなお花なんだ。真っ赤な色でね、春姫の目みたいなの」

黒いくりくりとした目に春姫の顔が映る。
早く早くと急かす響をだいたまま、庭へと向かう。
響の家の庭には季節ごとの花々がいつでも満開だった。
その一画に響は小さな花壇を持っていた。

「ほら、あれだよ」

響が指差す方には、赤や黄色のチューリップが風に揺れていた。
春姫は目を見開く。
響が隠れてなにかを育てていたのは知っていたが、まさかこんなにたくさんのチューリップを育てているとは気づかなかった。
普段外出を抑制されてるゆえに、こんなことで時間を潰していたのだろう。

「すごいな」
「うん。春姫、お花好き?」
「あぁ」
「じゃぁ僕と同じだね」

響は春姫の腕から降りると花壇のそばに座る。
春姫も隣にしゃがみこんでチューリップを見つめた。

「春姫が帰る時にいくつか持っていって」
「いいのか?」
「うん、もともと春姫に喜んでもらいたくて育ててたの。すごく楽しかったよ」
「遠慮するよ…」
「え…」

響は悲しそうな顔で春姫を見つめた。
春姫は手を伸ばしてくしゃくしゃと響の頭を撫でてやる。

「つんでしまったらすぐに枯れてしまうだろ?こんなにきれいなんだ。そのままにしよう」
「う…ん」
「でも響の気持ちはすごくうれしいよ。ありがとう」

礼を言えば響は嬉しそうに笑った。
それをみながら春姫は目を細める。
摘んだら枯れてしまう…それはこの子にもいえることではないか。
ただの人である響は簡単に死んでしまう。
出会ってからわずかの時しか経っていないのに、彼の存在は日々大きくなっていく。

「響…」
「うん?」
「今度は俺も一緒に育てるよ」
「本当?楽しみだな」

響は花壇を見つめる。
赤いチューリップは優しく香り、虫たちを誘う。
春姫は響の横顔を見つめた。
自分より確実に早く命を失う響。ならば、今、響と多くの思い出を作ろうと、春姫は決めた。

「ねー、春姫」
「なんだ?」
「大好きだよー」

照れたように笑う響。その響を抱き締め、頬にキスをする春姫。
満開の花々を春の日差しが照らす中、二人の笑い声は楽しげに響いていた。
後日、響の花壇には¨響と春姫¨と立て看板が設置された。





春に響く

(春姫、チューリップの次はひまわりね?)
(わかった。でっかい花を咲かせような)


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